マイナー・マイナー

隠れた名作の発掘が生きがい。

『エンバンメイズ』どうあがいても絶望な状況へ誘う快感

ダーツ×心理戦


この組み合わせが最高に面白い漫画が田中一行さんの漫画『エンバンメイズ』です。ダーツを狙ったマトへ確実に当てる技量を持ったプレイヤー同士が大金、ときには命を掛けて戦います。


ダーツバトルは通常ルールではなく特殊なルールが加わります。例えば、マトの点数が隠されてランダムに点数が入れ替わるなどのルールが加わります。特殊なルールの中でいかに相手を負かすか、その心理戦に見応えがあります。


ダーツのマトの最高得点である180点を取り続けるのが当たり前のプレイヤー同士。勝負を左右するのは心理戦の強さであり、そして信念に対して迷わない心の強さです。


主人公の烏丸徨(からすまこう)は対戦相手を迷わさせるプロです。どうあがいても負ける状況へと誘わさせる戦い方が特徴的です。対戦相手が絶望的な状況へと落とされる、『エンバンメイズ』はそんな展開がおもしろい漫画です。



以下、心が震えた名勝負3選の紹介です。

烏丸徨・絹守 一馬 VS 山田ロミオ・時盾実


君たちは 麻酔のない”歯医者さん”にかかった経験はないでしょう?

追加の得点を得るためには利き手を犠牲にしなければならない、というルールで戦います。矢を得るためにはダーツの針で手を貫かれるリスクを負わなければならない。痛みのプロが仕掛ける地獄への追い込みがすごいです。絹守 一馬が格好良すぎです。

烏丸徨 VS 皆月司


愛だとか自由だとか誰かを守りたいだとか そんなことは勝利には直結しない

ダーツのマトに毒を設定し、その毒のマトにダーツを当てると死ぬ、というルールで戦います。また、このゲームには20人の少年少女も参加します。少年少女を救うために烏丸徨が奮闘します。極端に不利な状況からの逆転劇が格好いい試合でした。

烏丸徨 VS 華原清六


ボクのほうが 死にも勝利にも君より近い

毒ガスが注入される密室でのダーツバトルです。「博士の矢」を使うと得点が得られない替わりにガス流入を止められ、「博士の矢」を使うと得点が得られる替わりにガス流入は止められない、そんなルールです。どうあがいても絶望な状況への追い込みがすごい!心理戦が熱すぎる戦いでした。

因果応報を学ぶおとぎ話『ホブゴブリン 魔女とふたり』

この女の子がホブゴブリン?!


つばなさんの漫画『ホブゴブリン 魔女とふたり』を読んでゴブリンのイメージがガラッと変わりました。どうやらゴブリンにはいろんな種類があって、中でもホブゴブリンはひそかに家事を手伝う妖精のことを言うそうです。


森の中に住んでいる魔女「バーバ・ヤーガ」と暖炉の妖精「ポーリーン」。魔女は怒りやすい性格。ポーリーンは魔女のために食べ物を探す日々を過ごしています。このポーリーンがホブゴブリンです。


ポーリーンが食べ物を探していると不思議な生き物に出会います。その生き物との交流が面白いのが物語の前半です。後半は魔女の正体が実は…な話になってきます。


読み終えると分類することができないような感覚が残りました。この漫画のジャンルは何なのだろう?ファンタジーなんだけれどミステリアスな要素もあるし、ホラーな要素もあるし…つかみ所がない内容なのですが、ひとつだけ言えるとすると、それは『ホブゴブリン 魔女とふたり』が因果応報な物語ということです。



哲学に触れるようなおとぎ話が魅力的です。例えば次のようなキャラクターが登場し、世界の真理に触れるような戒めを残していきます。

丸太

ですが私たちは いずれにせよ誰かの命の糧となるのが幸せなのです!

魚釣りをしていたら丸太が釣れた!そして、その丸太は空飛びます。生きるということは食べるということ、食べたものはいずれ何かの糧となる、そんなメッセージ性を感じます。

命の地図

私は命の地図よ “人生”という概念で呼ばれることもある

きれいな光を追いかけていたら、それは命の地図だった。死ぬことは一つの旅の終着点、けれどもその終わりが誰かに繋がっている。その連続性がいいですよね。


良い行いは良い行いとして巡ってくる、悪い行いは悪い行いとして巡り巡ってくる。『ホブゴブリン 魔女とふたり』はそんな輪廻や因果応報といったテーマを感じた漫画でした。

『春と盆暗』よく分からない妄想を理解する青春ストーリーが素敵

モヤモヤしたら、月面に道路標識を放り投げるとか


いろんな妄想を人はするけれど、その妄想は他者から見たらよく分からないものだったりします。けれどもその妄想を理解できた時、お互いの距離が一歩近づけたような関係になったりします。


妄想を理解してお互いの関係が親密になる、そんな過程を楽しめた漫画が熊倉献さんの『春と盆暗』でした。本作は4作の短編+おまけの構成となっています。


とにかく妄想のセンスがすごかったです。月面に道路標識やケーキを巻き戻すなど、そんな発想よくできるなぁと…そして、そんな妄想たちにうまく対応するストーリー構成も秀逸で、もうセンスの塊を見ているような漫画でした。


春と盆暗 (アフタヌーンコミックス)

春と盆暗 (アフタヌーンコミックス)

第1話 月面と眼窩


…モヤモヤした時は月面を思い浮かべて そこに思いっきり 道路標識を放り投げるんです


とある青年が、お店のアルバイト(サヤマさん)に恋する話です。サヤマさんはイライラすると手をグーパーグーパーします。パーの時に何かを持たさせたい、そんな妄想にとらわれるのは僕だけではないはず。妄想を実行するかどうか、それが青春を楽しめる秘訣なのかもしれない。

第2話 水中都市と中央線


なんか 水面ギリギリで息してる人みたい


カラオケ店員の青年と女性客(水面ギリギリで息してる人みたい)の話です。女性客はカラオケの受付時に毎回違う名前を書くのですが、その名前には共通点があります。行動には何かしらの法則がある。その法則を知ることができればその人の魅力も分かる。そんな内容が素敵でした。

第3話 仙人掌使いの弟子


サボテン同好会のメンバー増やそうよ


14歳のススムくんが、はとこのさわ姉に勧められてサボテンをもらう話です。そして、学校のとある問題を解決しようとさわ姉の発想力を頼ります。お互いを知るためのきっかけはきっとどこかにあって、興味が強くなればなるほどそのきっかけは明確に現れる、人生にはそんなルールがあるような気がします。

第4話 甘党たちの荒野


このケーキ 巻き戻せませんかね?


景色を早送りする妄想にとらわれた男性と、ケーキを原材料まで巻き戻したい女性の話です。ケーキのことを良く知ればできるようになるかもしれない、そんな男性の返事で女性からお菓子作りを学ぶことになります。よく分からない問題をセンスのある回答で切り返す、そんな対応力を身に付けたいものです。

おまけ 二足獣


僕の父はサメ 母はオオカミ 人間そっくりな僕に人間の血は流れていない


そんな娘に惚れる人も世の中にはいるよね!人生は妄想の相互理解で成り立っている気がします。

『ウォーキング・デッド』が面白すぎてつらい…

あれほど海外ドラマに手を出すなと釘を刺したのに…


ウォーキング・デッド』を軽い気持ちで「一話だけ見よう」と思って見たら、気づけばシーズン6まで見終えてました。面白すぎだよ、このドラマ!


そんなわけで、ここ数日はAmazonプライム・ビデオで『ウォーキング・デッド』をひたすら見てました。ヒューマンドラマが熱いです。衝撃的な展開にドキドキです。絶望に突き落とされても這い上がる姿にしびれます!このドラマ、面白すぎる!!


シーズン1からシーズン6までは全部で83話。1話約43分とすると、83話の合計時間は約60時間。いやー、熱中した!せっかくなので感想をメモします。以下ネタバレ注意です。

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【波よ聞いてくれ】ただただ挽回したいという企画が熱い!

『波よ聞いてくれ』の第三回のラジオ放送が熱いです!


『波よ聞いてくれ』は、カレー屋で働く女性(鼓田ミナレ)がとあるきっかけにより札幌のラジオ局でパーソナリティを務めることになる漫画です。ミナレの自己主張の強い性格とボキャブラリーが豊富な言い回しがめっちゃ面白いです。


第3巻で、ミナレがパーソナリティを務める番組「波よ聞いてくれ」の第三回目の放送がされるのですが、その内容がすごく心を打ちました。


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ただただ挽回したい
そんなダメ人間の集う
人生リハビリ番組になる予定ですうう


この言葉、すごく胸を打ちました。はたから見ればただの失態を電波に乗せて晒しているように見えます。けれど、ダメ人生を歩んで来た人にとってはすごく格好いいセリフだと思うんです。



まず、ラジオ放送の経緯をまとめると次のようになります。


第一回のラジオ放送
架空実況その1です。ミナレが「自分を裏切って逃げた男をたった今殺してきた女」を演じます。自分を裏切った男の名前は、ミナレの元彼氏(光雄)です。


第二回のラジオ放送
架空実況その2です。ミナレが「光雄を埋葬する女」を演じます。この放送前に、ミナレは光雄と会って、そこで別れを告げます。


第三回のラジオ放送
この番組の企画を放送します。この放送前に、ミナレの住んでいたアパートの住人(沖進次)に多大なるご迷惑をおかけします。 その謝罪が放送されます。


第一回、第二回の放送でミナレは光雄との過去を挽回します。第三回の放送では、ミナレは自分のやらかした失態を挽回しようと頑張ります。失態した過去を挽回しようと生き抜く、そんな姿勢がすごくいいです。


過去の失態に対してどう向き合うか。今まで失態は償いでしか清算できないものだと思っていました。反省し、何かしらの罰を受けることでしか対処し得ないものと思っていました。


けれど「挽回」という言葉が目からウロコでした。過去の失態に対して「償い」ではなく「挽回」。罪を受けるというよりも失態を盛り返す。そんなポジティブな言葉が最高に素敵でした。