正義とか美しさとか強さとか、それらお互いに関連がありそうでなさそうな要素をつないでいくような小説が『ブラッド・スクーパ(The Blood Scooper)』でした。正義だから美しい、美しいから強いというような原則を感じられる作品です。
前作の『ヴォイド・シェイパ』は自身の正義を遵守して本質に触れていくような展開でしたが、『ブラッド・スクーパ』は自身の正義に従わない実践の中で、本質が浮き彫りにされていくような展開でした。英題を邦訳すると「血をすくうもの」といった感じです。
ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper ヴォイド・シェイパ
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2013/04/26
- メディア: Kindle版
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どこに正義があった?
正義とは何だ?
お前は何をした?
何をしようとした?
例えば自分の力を使いたくない用途に使用したとき、その力に正義が内包されていない感覚を感じたりします。その感覚は、おそらくは自身の信じる美学に反する感性から来ているように思います。
「剣に美しいも醜いもない。あるのはただ、強いかどうかでは?」クズハラが言う。
違う。
美しいから強いのだ。
強さを評価する指標は自身の美学の中にあって、美学に則っていくことが強くなっていくことと同じ意味であるように思いました。剣の道だけではなく、どんな道にもそういった美学があって、その美学を基準に正義や強さといった価値尺度が規定される。『ブラッド・スクーパ』はそんな視点が得られた小説でした。