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長期記憶できない系小説の究極系『失われた過去と未来の犯罪』


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全人類の記憶が10分しかもたない。


この設定さね!小林泰三先生の小説『失われた過去と未来の犯罪』のこのトンデモ設定が熱いです。


物語は、ある日突然に長期記憶できなくなる現象に見舞われるところから始まります。人類はこの現象にどう対処し、そしてどのような未来を迎えることになったか…それを様々な人の視点から見るような内容となっています。



長期記憶を半導体メモリに記録できるようになった世界が描かれるのですが、そんな世界に住まう人々の物語が素敵すぎました。結末は見ものです。以下は『失われた過去と未来の犯罪』のおおまかな内容です。

第一部

ある時突然に全人類が長期記憶できなくなる事象に襲われます。その事象が起こった時のことを、女子高生「結城梨乃(ゆうきりの)」とその父の視点で語られます。記憶には頼れない。頼りになるのは論理的思考力。何度もつまづきながらも問題を解決していくプロセスが熱いです。

幕間

人々は長期記憶することが不可能になってしまった。

第一部で起きたこの現象「大忘却」が起きた理由と、「大忘却」の対処の歴史が描かれています。科学技術の発展により、長期記憶を半導体メモリに保持する装置が人間に取り付けられるようになります。かくして、人の身体と長期記憶は取り外し可能(交換可能)な世界が誕生します。

第二部

長期記憶が交換可能になった世界の物語が語られます。どこか分からない世界。そこにふと現れた人物が物語を次々に思い出します。

家族が誕生する物語

ある男女がぶつかった拍子にお互いのメモリが外れ、そして別々に身体に取り付けられる話です。身体と記憶が入れ替わった感覚、まずはこれを体験します。

心の物語

ある医者の息子と大学生のメモリを交換して、大学を替え玉受験する話です。見た目は息子、しかし記憶は別人、そんな人間を受け入れらるだろうか。

自分の外に自分が存在する物語

ある双子「陽菜(はるな)」と「陽香(はるか)」の物語です。陽菜の身体に間違って陽香のメモリが挿入されます。もうひとりの自分が隣にいる、そんな感覚はきっと耐え難いものかと…

決断する物語

ある4人の家族がドライブ中にとある事故に遭い、事故の衝撃で息子のメモリが壊れます。息子の身体を守るために、父はある決断をします。純粋な家族愛を感じる、そんな話です。

記憶を持たない人々の物語

外部記憶装置の装着を拒否した人々が存在する村に、市役所の職員が訪問します。最初は外部記憶の装着を勧めるのですが、だんだんと良からぬ方向に向かいます。

イタコの物語

死んだ人が装着していたメモリを装着して、その人の記憶を蘇らせる「イタコ」ビジネスの話です。記憶の残ったメモリと、それを再生できる端末があれば、生死の境は曖昧になるわけで。。

そして結末

どこか分からない世界にいた人物の話が語られて、物語は結末に向かいます。人々の記憶がメモリとして保存可能、交換可能になった先に待ち構えている未来がすごく魅力的です。


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