散りばめられた謎が一気につながる構成って良いですよねー。
構成に魅せられる小説が殊能将之さんの小説『鏡の中は日曜日』です。石動戯作(いするぎぎさく)シリーズの第3作目です。本小説には表題の「鏡の中は日曜日」と「樒 / 榁(しきみ / むろ)」が収録されています。
視点や話題がよく切り替わるので混乱しやすいと思いますが、実は単純な真実だったりします。逆にいうと、単純な真実を騙すことに特化して文章が構成されています。構成の芸術とでもいうんでしょうか。
また、ミスリードに次ぐミスリードも体感できる小説だと思います。一つのミスリードが明らかになって落ち着いたと思ったら実はまだミスリードがある…そんな構成がすごいです。二重三重に騙されますよ。
- 作者: 殊能将之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/07/12
- メディア: Kindle版
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鏡の中は日曜日
14年前、鎌倉にある法螺貝をイメージした館「梵貝荘(ぼんばいそう)」で殺人が起こります。事件は当時その現場にいた探偵によって解決されたが、この解決に疑問を持った人物は名探偵の石動戯作に事件の再調査を依頼します。
断片的な情報が一気につがなるというすごさと面白さを感じました。三章からなる物語なのですが、第一章と第二章はパズルのピースを一つずつ確認していき、第三章でパズルが一気に組み上がる…巧妙に仕組まれた構成に惚れ惚れします。
また、作者の文学好きが伝わってくる内容でもありました。フランスの詩人「マラルメ」をテーマに議論が白熱するシーンがありますが、それが濃いです。濃い議論を描写するための尽力をひしひしと感じます。
サブタイトルは「Im Spiegel ist Sonntag」で、フランス語が出てくるのでフランス語かなと思ったらドイツ語でした。Spiegelが鏡でSonntagが日曜日です。
樒 / 榁
樒と榁の二章で構成されています。舞台は香川県にあるとある旅館。樒の章ではその旅館で密室殺人が起こります。榁の章では、密室殺人から16年後を描いており、同じ旅館で密室が起きます。
しきみ【樒】 シキミ科の常緑小高木。全体に香毛があり有毒で、果実は特に毒性が強い。枝葉を仏前や墓前に供する。語源は「悪しき実」からとも。
むろ【榁】 杜松の古名。
ねず【杜松】 ヒノキ科の常緑小高木。葉は針状で三本ずつ輪生する。紫黒色の球果から油を製し、利尿薬とする。和名は「ねずみさし」の略で、尖った葉が鼠を追い払うとされることから。
樒の事件が榁の事件に関わってくるのですが、その関わりが面白いです。樒なくして榁ができない…そんなトリックに惚れ惚れします。ちなみに、両方の漢字から部首のきへんをとると「密室」という言葉が現れてきます。このセンス、良いですよねー。