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隠れた名作の発掘が生きがい。

『殊能将之 未発表短篇集』天才性を感じるあとがきも魅力的


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ハサミ男』『黒い仏』の著者で有名な殊能将之先生。その著者の死後に出版された短篇集が『殊能将之 未発表短篇集』です。4篇の短篇が収録されています。


短篇も面白いですが、あとがきも面白いです。あとがきでは殊能将之先生の人物像が語られるのですが、その中で殊能将之先生の天才性を感じることができます。


例えば『鏡の中の日曜日』の中では、フランスの詩人「マラルメ」に対して深い言及がされています。すごいところは、それを書くためにフランス語を独学で学んだというところです。

殊能将之の天才には脱帽した。というか、ふつう、作家が片手間でやるようなことじゃないよ!


殊能将之先生の小説には所々に調査力のすごさを感じる描写があります。『美濃牛』では引用文献が100以上ありますし、『黒い仏』では漢文の史料を自作しています。この小説に対する妥協しない姿勢が魅力的なんですよね。


殊能将之 未発表短篇集

殊能将之 未発表短篇集


以下は短編の感想です。

犬がこわい

犬嫌いの男「半崎誠一郎」が住む家の隣に大きな白い犬を連れた男性「光島」が引っ越してきます。犬は鎖に繋がれてておらず、家の外で放し飼いにされています…


犬嫌いの人であっても、犬はその人のことを嫌いとは限らないです。もしかしたら犬は打算的に行動しているのかも。犬の放し飼いの理由がとんでもない真実に繋がっている…そんな話です。

鬼ごっこ

現場作業員の北沢とヤクザの黒川が、どこかに隠れている高木を追い詰める話です。黒川が得た情報をもとに、高木が住んでいるアパートを訪ねます…


武器を持った大人が本気を出して人を追いかけると周りに大きな被害が出そうです。被害を出しながら高木を追い詰めていった先に何があるのか…とんでもない真相が見所です。

精霊もどし

主人公のもとに友人の「広永」から電話がかかってきます。呼ばれるままに広永の家に行った主人公は、半年前に他界した広永の妻「真知子」を復活させる秘術の手伝いをさせられます…


愛する人を復活させる系の物語には、生前の秘密が明らかになる小話がよくあると思います。この話には「夫は妻の作るコーヒーの豆の保存場所が分からない」という小話が出てきて、それが個人的にツボでした。

ハサミ男の秘密の日記

殊能将之先生が『ハサミ男』を出版する経緯が描かれています。舞台は1999年、著者が書店で平積みにされていた雑誌「メフィスト」を開き、「ハサミ男」がメフィスト賞を受賞したことを知ります…


殊能将之先生の私生活感が分かる話(日記)です。先生は気になったところは深く言及する癖があるように思います。そして、その癖が1つの大きな魅力に感じるんですよね。妥協しない姿勢…そこに惹かれます。