マイナー・マイナー

隠れた名作の発掘が生きがい。

記憶の不確からしさは追求しない方が良いかも『忌憶』

不確定なものに人は恐怖を感じます。


幽霊とかね。そして、よくよく考えて見ると記憶も不確定なものです。たいていの人は1年前の今日に何をやっていたか、を明確に思い出すことはできないです。


そんな記憶の不確からしさがもたらすホラーを体感できる小説が小林泰三さんの小説『忌憶』です。三つの短編「奇憶」「器憶」「垝憶」が、記憶の不安定さをあぶり出します。

人間は見聞きしたことを殆ど忘れているんです。覚えていることはその何万分の一のことで、それもかなり不正確だ。


人は記憶を思い出す時に、想像力で足りない部分を補っているようです。裏を返せば、足りない部分には何かしらの不都合があるのではないだろうか。。そんな不安がよぎります。


思い出したくないような記憶を一生懸命思い出さない方が良いのかもしれない。『忌憶』はそんな教訓が得られるような小説でした。


忌憶 (角川ホラー文庫)

忌憶 (角川ホラー文庫)

奇憶

幼少期のころまで記憶を遡ってみると、月は二つあった…主人公の藤森直人がその奇妙な記憶の真相にたどり着く話です。


子供の頃は平行する世界を同時に知覚している、そんな設定が熱すぎます。夢か現実か分からない記憶が混ざっていたら、それは平行世界の記憶かもしれない。あと主人公の人生がだんだんと堕ちていくのですが、その堕落過程が妙に印象に残ります。

器憶

とあるお店で腹話術の人形を手に入れます。その人形で腹話術の練習をしていくうちに、人形が人格を持ったような振る舞いをし始めます。


人形を見ただけでその人形の性格が自然と思い浮かんでくる、そういった感覚を持ったことがあると思います。その感覚をさらに深めたような内容がこの短編です。人形の形が無意識に脳に働きかけている、そこに奇妙な怖さを感じます。

垝憶

前向性健忘症となり、記憶が数十分しか持たなくなった男(田村二吉)の話です。記憶を補助する目的で持っているノートには、自分が人を殺したというメモがあり…


記憶を失う以前の情報はノートに書かれた情報を信じるしかない、そんな生活を疑似体験するような内容です。記憶が数十分しかもたない=記憶を何度でもリセットできる…考えようによっては何度も違う人生を体験できたりします。


田村二吉関連
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豪華すぎない?SF名手が集まった『BLAME! THE ANTHOLOGY』

九岡望小川一水、野崎まど、酉島伝法、飛浩隆


弐瓶勉さんの漫画『BLAME!』のアンソロジー小説『BLAME! THE ANTHOLOGY』を手がけている小説家のリストですが、SF好きであれば見たことのある作者が並んでいると思います。もうね、一目見て思いましたよ。このアンソロジー、豪華すぎだろ!


BLAME!』はSF漫画の金字塔だとずっと心の中で思っていたのですが、このそうそうたる作者達がアンソロジーの企画に参加するのを見て、この思いは間違いではなかったと胸を張って言うことができますよ。『BLAME!』の影響力のすごさをこの一冊に感じます。


アンソロジーの内容も『BLAME!』愛をひしひしと感じる内容でした。巨大な階層都市の一部分の話をする内容もあれば、全体を語る話もありました。 SF名手達が描くそれぞれの『BLAME!』を堪能しました。


BLAME! THE ANTHOLOGY (ハヤカワ文庫JA)

BLAME! THE ANTHOLOGY (ハヤカワ文庫JA)

はぐれ者のブルー (九岡望)

電基漁師の「鈍丸(にびまる)」が食糧を探しに出かけたら、珍しい珪素生物「アグラ」と出会った話です。鈍丸は青の塗料を積極的に探すのですが、それにはとある理由があります。


いろんな性格の人がいるように、いろんな珪素生物もいます。中には人間に友好的な珪素生物もいるはず。そんな珪素生物と人間が出会ったなら、という内容でした。オチがいいね!

破綻円盤 —Disc Crash— (小川一水)

とあるお休み処「碧天軒」で働いている珪素生命「ルーラベルチ」のもとに、検温者「夷澱(イオリ)」がやってきます。夷澱は温度データを集めているのですが…


BLAME!の都市階層は巨大すぎるので、地球や太陽といった惑星、恒星がどうなっているのか、一度は気になったかと思います。この短編は恒星と都市階層の構成がどうなっているかを探査するような内容です。よく練られた設定がすごいです。

乱暴な安全装置 —涙の接続者支援箱— (野崎まど)

ネットスフィアへの接続を支援する「接続者支援箱(カスタマーサポートボックス)」をめぐる話です。放蕩者の「ニウ−レスキ」が見つけた白い塊の正体を調べていたら、ある陰謀に行き着きます。


ネットであるならハッキングもできそうではあるけれど、未だに都市機能が回復していないところを見ると、ネットスフィアのセキュリティはとてつもなく強固そうです。どうあがいても手に負えない、そんな無常を感じる内容です。

堕天の塔 (西島伝法)

階層都市の連続体を一直線に穿つ「大陥穽(だいかんせい)」。その中を、統治局の代理構成体「ホミサルガ」を含む数十名が落ち続ける話です。


無限とも思える時間、落下し続ける…巨大すぎる階層都市だからこそ映える設定だと思います。無常とも思える長さを表した一節にすごく胸がときめきました。

これまでどれだけ落ちてきたのだろう。これからどこまで落ちていくのだろう。

射線 (飛浩隆)

「環境調和機連合知性体」の話です。この知性体は巨大な階層都市を構成する表面が知性を獲得したような存在です。エアコンのような環境最適化機能が都市の構成要素になっていて、その構成要素に自我があるような、そんな知性体です。(うまく表現できている自信がない…)


読み終わった後の第一声は「これ…すごい…」です。誰も思いつかないような知性体を登場させ、その知性体から見たら階層都市の歴史を語るような内容なのですが、SF心をくすぶるような緻密な描写に興奮しっぱなしです。何かの賞を受賞するんじゃないかな。。


関連:冲方丁さんも書いてます
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「えっ、Kindleストアの書籍って在庫切れあるの?」を知った話

電子書籍といえば在庫切れがない、とずっと思っていました。


けれど実際あるんですよねー。Kindleストアの本で「在庫切れ」の文字が出ているところ、初めて見ましたよ。


ポプテピピック』という漫画があるのですが、これを欲しい物リストに入れています。試し読みした時「なんだこのカオス!」と衝撃を受けて、思わず欲しいものリストに追加しました。欲しい、というよりも買おうかどうか迷っている漫画です。


この漫画、内容が本当カオスです。そのカオスっぷりを僕はうまく説明できる自信がないですが、代わりにAmazonのカスタマーレビューがカオスをうまく説明してくれているので、一読の価値ありです。アニメ化になるの納得ですよ。



そんな『ポプテピピック』ですが、少し前に欲しいものリストから見てみると「在庫切れ」の文字が…えっ、Kindleストアなのに在庫切れあるの?と衝撃を受けた瞬間です。


今現在は『ポプテピピック』の在庫切れが無くなっている状態なのですが、「在庫切れ」の文字を見た瞬間は驚きと同時に不安になりましたよね。『ポプテピピック』は作者が作中で出版社に喧嘩を売るような内容を含んでいるので、もしかしたら出版社とモメて出版停止になった?という想像が頭をよぎりましたよ。


なぜ「在庫切れ」になったのか原因は分からないですが、「在庫切れ」があるというのが今後の買い方にも影響が出てきますよね。いつでも買えるという安心感は無くなるため、何か雲行きが怪しい漫画や小説は在庫があるうちに買う、そんな選択肢が出てきました。


デジタルなデータであっても、いつでも提供が可能な状態とは限らない。在庫切れになりそうですな情報提供なり通知なりがあればいいんですが。。

『小説BLAME! 大地の記憶』途方も無い時間、忘れられない何か

冲方丁 × 弐瓶勉


もうね、面白くないわけがない! 弐瓶勉さんの『BLAME!』を冲方丁さんの語りで描く、そんな夢のコラボが『小説BLAME! 大地の記憶』です。


小説は、漫画『BLAME!』の最初のあたり(LOG.1〜11)を描いた内容となっています。基本的には原作に沿った内容ですが、途中からオリジナルなストーリー展開を見せます。


BLAME!』の名シーンの一つといえば、「LOG.2::大地の記憶」で主人公の霧亥がハードコピーの本を手に持ちながら「大地って何だ」と発するシーンです。この一言は「大地が何か分からない」という途方もなさを感じる名言だと思います。


小説版は、タイトルにもあるように、「大地の記憶」が一つの軸になっています。霧亥が大地に想いを馳せる姿、、そこに素敵で熱いものを感じます。霧亥の持つ人間性を垣間見ることができるような内容でした。


小説BLAME! 大地の記憶

小説BLAME! 大地の記憶

冷たく静かな大地が明るくなる頃、人影は丘の上に登った


ハードコピーの一文ですが、小説版ではこの続きが書かれています。おそらくは冲方丁さんのオリジナルの文章だと思いますが、その文章にはとてつもなく長い旅を支える希望を感じました。


あと、漫画は口数や説明の少ないのが特徴でしたが、小説は文章で書くということもあって、細かな描写が多々あります。そして漫画を読んでいて気付けなかったことにも気付けたりもしました。


例えば、LOG.2ででかい機械を片腕で持ち運びする女性。実は女性自体に腕はなく、マシンスーツの補助で腕を動かしています。改めて漫画を読み返して見ると、たしかにそうだ!


BLAME!』は大好きな漫画のひとつで、結構読み込んでいるという自負はあったのですが、この小説を読んでまだまだ読み込みが足りていないと実感しました…そして同時に、BLAME!の世界を丁寧に描く冲方丁さんにBLAME!愛を感じる小説でもありました。

小説と漫画の違い

以下は小説と漫画のBLAME!で対応している箇所とオリジナルの箇所のメモです。ご参考までに。

小説の章 原作
1 - 5 LOG.1::ネット端末遺伝子
6 LOG.2::大地の記憶
7 LOG.4::統治局
8 - 10 LOG.8::塊都
11 - 14 LOG.9::生電社 ※ここから大きくオリジナル展開
15 - 16 (オリジナル)
17 LOG.6::珪素生命
18 - 20 LOG.9::生電社 ※頭取との戦闘
21 - 22 (オリジナル)
23 LOG.9::生電社, LOG.10::ネット球, LOG.11::セーフガード
24 (オリジナル)

『劇場版BLAME! 弐瓶勉描きおろし設定資料集』が熱い件

熱いです、10数年を経て再構成された劇場版『BLAME!


劇場版は、原作漫画が完結してから間が空いたこともあって、絵のタッチや内容がやわらかくなっているように思いました。原作が登場人物の口数少なく無機的なのに対し、劇場版は口数が多く有機的に感じます。


そんな弐瓶勉さんの質の変化を感じることができる魅力的な一冊が『劇場版BLAME! 弐瓶勉描きおろし設定資料集』です。原作の無機的な感じも好きですけど、劇場版の表情豊かなシボやサナカンもいいよね!


紙媒体だけでなく、Kindle版も出版です。もちろん両方購入です。Kindle版は見開きの絵が継ぎ目なく見れるのが良いです。「大平盤01」とか「づるの部屋付近」が切れ目なく見れる!


キャラクター設定資料編

漫画の「新装版 BLAME!」の1巻(霧亥)、2巻(シボ)、3巻(サナカン)の表紙を正面、側面、背面から堪能できるカットがあります。霧亥のスキンスーツの中身とか、シボの素体とかがめっちゃ良いです。


個人的に、劇場版BLAME! で登場した機械の中では偽装ネット端末遺伝子が一番好きです。シボと接続されたシーンはもっと好きです。壁紙作って欲しい。

背景設定資料編

づる達のいる集落ってすごい素敵ですよね。「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」に出てきそうな集落です。


周囲は建設者が作った人の住んでいない場所は整然たる風景ですけど、人間の住む場所には人間味が出てきます。これらのギャップに魅力的なものを感じます。絶望的な環境でも人間は生きている。

動画設定資料編

絵コンテも堪能できます。映像化にあたっての下書きですが、コマ割で書かれているので漫画みたいに読めます。映画の振り返りにちょうど良いです。


サナカンの笑顔シーン、良いですよ。そして、シボが偽装ネット端末遺伝子に接続するコンテがすごくもえる!誰か壁紙作って欲しいなぁ。。


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