健康、思考、感情が科学技術によって制御されている平和な世界。そんな世界の現実は、人から考えることや感情を奪っていく。ゆっくりと平和に殺されていく世界に霧慧トァンと御冷ミァハが反抗する。
ユートピアを快く思わないトァンの視点から平和な世界を語ることで、平和な世界の短所となる部分が強調されているように思います。文体にXMLっぽい記述が挿入されていることもこの小説のひとつの特徴で、そのことが感情や意識というあいまいな形を具体化し、率直にそれらを読者へと伝えています。
利便性や効率性を追求した先のひとつの解がこの小説にあると思います。その解へと向かう過程で、思考と感情の必要性や、人とシステムはどこまで依存しあっていいものかなどを考えました。理想世界の実現は、個体を完全に制御できた先にある、そう感じた作品です。おぼろげにイメージしていたユートピアが刷新されました。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/12/08
- メディア: 文庫
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