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隠れた名作の発掘が生きがい。

科学と論理がぎゅっと詰まったハードSF 『天体の回転について』


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小林泰三さんといえばグロホラーの代名詞である『玩具修理者』や、時間の不均衡がせつない『海を見る人』などの作品が有名だと思います。SFとホラーの両方を主に手掛けていますが、共通して感じるのは奇妙に強力な論理展開です。『天体の回転について』もその展開は健在であり、なおかつ本作ではそれに科学に関する説明が詳細に書かれているため、説得力とリアリティがみなぎっています。


天体の回転について (ハヤカワ文庫 JA コ 3-3)

天体の回転について (ハヤカワ文庫 JA コ 3-3)


『天体の回転について』は全8篇となります。以下はその中で特に印象に残った3篇の感想です。


天体の回転について
科学に憧れた青年が経験する軌道エレベーターについて書かれています。ガイドの少女が懇切丁寧に軌道エレベーターの機能を解説しているため、あたかもそれを体験したような読了感が得られる作品です。


盗まれた昨日
長期記憶を外付けメモリに保存することを余儀なくされた人々の物語です。人を形作るものは記憶なのか、身体なのか、そんな命題というか議論が面白い作品です。


時空争奪
終わりから始まるという原則に度肝を抜かれた作品です。発想力だけでもすごいのですが、そこに現代の歴史の神秘性を織り込めることで、物語をより異質で奇妙なものにしています。徐々に異なったモノへと変化する過程がとてもホラーです。


他にもグロかったりエロかったりな作品があって、本作は多様な作品が楽しめる一冊でした。