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『春ノ虫虫』痛いけれどやめられない欲望にぞわぞわする


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『社会不適合の穴』を読んだなら『春ノ虫虫』も読まなー!というわけで、Kindleストアで購入できるようになっていた『春ノ虫虫』を即買いです。


本作は5編の短編で構成されていて、中には『社会不適合者の穴』に出てきた登場人物を想起させるようなキャラクターが登場します。どの作品もぞわぞわするものを感じるようなエロとバイオレンスを内包していました。


春ノ虫虫

春ノ虫虫


生存者は今日も嗤う

「ただ欲を言うなら あたしを何も感じなくなるようにしてくれますか」

ミヤモトとチェリーな人物が出てくる話。生きたまま身体を改造されていくという内容で、改造過程の描写にぞわってなるものがあります。現状を変えようとするとき、その過程で痛みを伴うものもある。痛みを伴う変化はきっと強烈で、だからずっと印象に残るのだろう。


白い肉

「書けない作家の絶望がわかりますか?」

人は追い詰められた時、平均的ではない行動に走るなんてこともざらにあるわけです。そしてその行動が容認される環境であるならば、その行動は普通な習慣となってしまうのだろう。不安を感じる描写が身体をぞわぞわさせる内容でした。


ラカン

「そして 妙なところに執念を感じる緻密な描写がなされていた」

人にうまく伝えられない、あるいは、伝えることができない欲望があったりする。うまく伝えて理解し合えれば嬉しいことだけれど、おそらくたいていの場合は理解し合えない。そんなことを感じた話でした。サエが最後に見せた物憂いそうな表情が頭から離れないです。


春ノ虫虫

「今日もまた 小さな観衆の前でそれは繰り返されるのか」

虫な話です。ええ、虫な話です。そして近親相なんたらな内容です。社会的、常識的にタブーな行動をやりたいという欲求はたいてい良心等が抑えるため、その代わりとなる行動で満たそうとする。タブーな行動が許可されたとしても、代わりの行動は急にはやめられないため、奇怪な行動をともなってしまうのだろう。


勝手にしやがれ

「キツい死ぬって時にだけ 生きてる気がする…というのはいかがなものか…」

出張ホストな話。クロエとミタを連想するキャラクターが登場します。生きていく、ということはある種の痛みの我慢を伴うもので、我慢し過ぎるとその痛みに慣れてしまう。そして痛みを思い出そうと別の痛みを探したりする。生きていくという行程はその連続だと思いました。


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