マイナー・マイナー

隠れた名作の発掘が生きがい。

『アイの物語』人の物語を理解したいアンドロイドの物語


スポンサードリンク

いつかは人と同様の知性を持つアンドロイドが開発されて、人と同じ行動範囲で生活する未来が来るかもしれない。その時人は、アンドロイドに対してどういった感情を持つのだろう。


人から見ると、アンドロイドの思考は異質のように感じると思います。同様にアンドロイドから見ると、人の思考は異質なものなのだろうと思います。『アイの物語』は、その両者の思考の調和点を探るような小説のように思いました。



本作は、アンドロイドの「アイビス」が7つの短編を人に読み聞かせるような内容です。IT技術の黎明期に紡がれたSFな短編は、どれも夢や愛情が溢れていました。


第1話 宇宙をぼくの手の上に

しかし、現実とはそんなにそんなに素晴らしいものなのか。直面して生きる価値のあるものなのか。

掲示板とメールを通じて宇宙SFの構想を練り、リレー小説を書いていく話。インターネットを介する関係というのは、危ういものではあるけれども、本心で語り合える関係でもあって、その関係も素敵だと思うのです。


第2話 ときめきの仮想空間

そもそも、仮想空間の中の恋が、本当の恋と呼べるのかどうかも疑問だ。

仮想空間の中で少女と少年が出会ってデートする話。仮想空間では、見た目が虚偽のものだと分かっているので、恋を感じてもそれは偽物だと思いがちです。けれど、偽物ではない可能性も少なからずあったりします。


第3話 ミラーガール

私が好きなのはシャリスなのだ。友達を買い換えようなどと思う者がいるだろうか?

少女と、AIを搭載した玩具「ミラーガール」との友情物語。AIとの間に友情は生まれるのだろうか。AIが違和感のない会話ができるようになれば、友情は生まれるようになるのかもしれない。


第4話 ブラックホール・ダイバー

でもきっと、いつか人生の狭間で、ふと、選ばなかったもうひとつの道を思って、せつなくなって泣くと思うのよ。

ブラックホールの向こう側に希望を抱いてダイブする話。ブラックホールを監視するAIが心変わりしていく過程に素敵なものを感じます。いつの間にか冒険心が希薄になった人生を歩んでいることを自覚させられました。


第5話 正義が正義である世界

争っている人たちはお互いに、自分たちが正義だと主張している。

怪獣と戦う女子高生に、世界の真実が伝えられる話。正義の意思を継承するような内容に熱いものを感じました。絶対的な正義と悪の両方が存在することが、理想郷の必須条件なのかもしれない。


第6話 詩音が来た日

私には愛は理解できませんが、傷つけ合うことが好ましくないことは理解できます。

介護用アンドロイドの試作機が試験採用される話。アンドロイドがAI特有の価値観に従って自己のモチベーションを獲得していく過程が見所でした。「AIらしさ」とは何かを学べる物語でもありました。


第7話 アイの物語

ヒトの倫理観は麻痺している。ヒト自身はそれに気づいていない。

アンドロイドが人類に反乱した経緯が語られます。アンドロイドの視点に経つと、人の思考プロセスに欠点が多く見られます。その欠点をも受け入れようとするアンドロイドの姿勢に心を打たれました。


人の思考とアンドロイドの思考はお互いに理解し難いものではあると思うけれど、お互いに許容することはできる。そんな未来の可能性を楽しめた小説でした。