知らなければ良かったと、後悔したことってたくさんありますよね。
自分の存在の正体、住所しか書いていないビデオテープの中身、美味しいお菓子の成分など、興味本位で知りたいことはたくさんありますが、それを知ることは必ずしも幸せな結果になるとは限らないです。
知らなければ良かったと後悔する、そんな話が満載の小説が小林泰三さんの『脳髄工場』です。11編の短編からなる本書にはどれもきつい真実が待っています。後味の悪い結果注意!
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2014/11/29
- メディア: Kindle版
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脳髄工場
脳の回路をコントロールする人工脳髄が普及した社会で、とある少年が人工脳髄の装着に抵抗する話です。
人間の感情や行動を補助する機械が実用化し始めています。けれど、その機械を取り付けたときに、自分の行動が自分の意志によるものか、機械の意志によるものか、その境界が曖昧になる懸念もあります。人間の自由意志の在りどころに葛藤する内容が面白い話でした。
友達
弱気な主人公が強気なもう一人の自分を想像する話です。けれど、その強気な自分がだんだんと現実に干渉し始めて…
自分の想像したもう一人の自分。注意しないとどちらが本物の自分か分からなくなります。本物の自分は理想と現実のどちらにいるだろうか。それをはっきりとさせないと大変なことになる、そんな話でした。
停留所まで
子供達が次のバス停までたわいもない怪談話をする話です。オチがいいです。怪談も粘着質のある怖いものばかり。
同窓会
同窓会に出席したら、いるはずのない人が来た話です。死者と生者を認識するものは何だろうか、そんな疑問を残していきました。
影の国
女性カウセラーが主人公の話です。ビデオテープに映っていたのはカウンセリングした記憶のない男性だった…
観測しなければ存在しない、この仮定を突き詰めて不安を煽る文章が素敵です。興味本位で世界の裏側を知ろうとするのは危険ですね。
この話は「世にも奇妙な物語」で映像化された話でもあります。最初にドラマの方を見たのですが、この話は今まで見た「世にも奇妙な物語」の中で最も異質でした。大半の視聴者はついていけなかったのでは?
声
拾った携帯電話に電話がかかってきた。電話の相手は未来のわたしからだった。
これから起こることを知ることができれば、今の状況を好きに変えられます。しかし、それにはもちろんリスクもともなうわけで…連続性を保つのは難しいというタイムパラドックスものです。
C市
Cという存在をどう扱うか、C市で研究する話です。クトゥルフ神話ものです。
人知の及ばない存在に対する様々な主張が読み応えあります。宇宙生命体の超進化形態、異次元知性体の一断面、究極観測者…様々な仮説が出て来ますが、最後の最後でそれかっ!てなります。
綺麗な子
森の中にある家に住んでいる女の子。その子の出生にいたる経緯にうわーってなる話です。科学が発達して代替品が今後増えてくると思います。そしてそのうち、本物と代替品との区別が付かなくなっていくんでしょうね…
写真
写真に心霊写真が写っていて、それが本物かどうかを鑑定する話です。写真を見てから24時間以内にそこに写っている霊に必ず会う、そんないわく付きの写真は絶対見たくない。
タルトはいかが?
拓哉が、涼子との同棲生活の内容の手紙を姉さんに送ります。その内容はお菓子に関するものですが、そのお菓子の調理や咀嚼の描写にうわーってなります。
食べるのをやめられない食べ物があったら、その成分を見てみると良いかもね。見ると後悔することになるかもしれないけれど。