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隠れた名作の発掘が生きがい。

知らなければ良かった話が満載『脳髄工場』


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知らなければ良かったと、後悔したことってたくさんありますよね。


自分の存在の正体、住所しか書いていないビデオテープの中身、美味しいお菓子の成分など、興味本位で知りたいことはたくさんありますが、それを知ることは必ずしも幸せな結果になるとは限らないです。


知らなければ良かったと後悔する、そんな話が満載の小説が小林泰三さんの『脳髄工場』です。11編の短編からなる本書にはどれもきつい真実が待っています。後味の悪い結果注意!


脳髄工場

脳の回路をコントロールする人工脳髄が普及した社会で、とある少年が人工脳髄の装着に抵抗する話です。


人間の感情や行動を補助する機械が実用化し始めています。けれど、その機械を取り付けたときに、自分の行動が自分の意志によるものか、機械の意志によるものか、その境界が曖昧になる懸念もあります。人間の自由意志の在りどころに葛藤する内容が面白い話でした。

友達

弱気な主人公が強気なもう一人の自分を想像する話です。けれど、その強気な自分がだんだんと現実に干渉し始めて…


自分の想像したもう一人の自分。注意しないとどちらが本物の自分か分からなくなります。本物の自分は理想と現実のどちらにいるだろうか。それをはっきりとさせないと大変なことになる、そんな話でした。

停留所まで

子供達が次のバス停までたわいもない怪談話をする話です。オチがいいです。怪談も粘着質のある怖いものばかり。

同窓会

同窓会に出席したら、いるはずのない人が来た話です。死者と生者を認識するものは何だろうか、そんな疑問を残していきました。

影の国

女性カウセラーが主人公の話です。ビデオテープに映っていたのはカウンセリングした記憶のない男性だった…


観測しなければ存在しない、この仮定を突き詰めて不安を煽る文章が素敵です。興味本位で世界の裏側を知ろうとするのは危険ですね。


この話は「世にも奇妙な物語」で映像化された話でもあります。最初にドラマの方を見たのですが、この話は今まで見た「世にも奇妙な物語」の中で最も異質でした。大半の視聴者はついていけなかったのでは?

拾った携帯電話に電話がかかってきた。電話の相手は未来のわたしからだった。


これから起こることを知ることができれば、今の状況を好きに変えられます。しかし、それにはもちろんリスクもともなうわけで…連続性を保つのは難しいというタイムパラドックスものです。

C市

Cという存在をどう扱うか、C市で研究する話です。クトゥルフ神話ものです。


人知の及ばない存在に対する様々な主張が読み応えあります。宇宙生命体の超進化形態、異次元知性体の一断面、究極観測者…様々な仮説が出て来ますが、最後の最後でそれかっ!てなります。

アルデバランから来た男

牡牛座のアルデバラン星系から来た男がある探偵事務所を訪れる話です。この男の話に怪しさを感じるのですが、探偵も怪しかったりします。誰を信じるかを試される内容です。

綺麗な子

森の中にある家に住んでいる女の子。その子の出生にいたる経緯にうわーってなる話です。科学が発達して代替品が今後増えてくると思います。そしてそのうち、本物と代替品との区別が付かなくなっていくんでしょうね…

写真

写真に心霊写真が写っていて、それが本物かどうかを鑑定する話です。写真を見てから24時間以内にそこに写っている霊に必ず会う、そんないわく付きの写真は絶対見たくない。

タルトはいかが?

拓哉が、涼子との同棲生活の内容の手紙を姉さんに送ります。その内容はお菓子に関するものですが、そのお菓子の調理や咀嚼の描写にうわーってなります。


食べるのをやめられない食べ物があったら、その成分を見てみると良いかもね。見ると後悔することになるかもしれないけれど。