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隠れた名作の発掘が生きがい。

『子どもの王様』異世界と繋がっているような団地の空気がたまらない


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団地が漂わせる奇妙な空気ってありますよね。そんな空気を体感できるジュブナイル × ミステリー小説が殊能将之さんの『子どもの王様』です。


舞台はとある団地。そこに住んでいる小学生のショウタは、同じ団地に住んでいる友達のトモヤから「子どもの王様」の 話を聞きます。子どもの王様は、子どもの国を支配していて、子どもを連れてきては召使いにする…というような話です。


その話を聞いてしばらくした後、ショウタは団地の近くで子どもの王様らしき人物を見つけます。そのことをトモヤに伝えると、トモヤの様子がおかしくなります。日常を取り戻すため、ショウタは子どもの王様と対峙します。


子どもの王様 (講談社文庫)

子どもの王様 (講談社文庫)


小学生の頃って、世界はどこかの異世界と接続されている感覚があったと思います。おとぎ話や怪談に登場するような生物が世界のどこかに存在している。そしてその存在の片鱗をときどき感じるような感覚です。


おそらくは、不思議なものを論理的に説明できる知識や経験がないために、不思議をそのまま受け入れる生物的な仕組みによるものと思います。そして、今体験していることと経験に不整合がある場合、素直な疑問になって表れます。

ひげを生やしているけど、子どもなんだ。怖いと思わない?


物語の節々に表れる、このような描写に素敵なものを感じます。舞台の団地が醸し出すような奇妙さが文面から伝わってきます。小学生時代を団地で過ごしていたという殊能将之さんの経験が織り込まれています。

  • 4号館のコウダさん … 西の良い魔女
  • 7号館のイナムラ … 東の悪い魔女
  • XXXXX … 子どもの王様


大人の読者からみれば、序盤で「子どもの王様」の正体は予想がつくと思います。しかし、子供のショウタの視点からだとその正体に気づけないんですよね。それが読んでいて面白いところです。


そして、最後の展開は衝撃的でした。大人への階段を一歩進む物語、ととらえても良いのだろうか…