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隠れた名作の発掘が生きがい。

『逡巡の二十秒と悔恨の二十年』後悔と満足の交錯


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小林泰三先生の短編小説『逡巡の二十秒と悔恨の二十年』を読みました。


一瞬の迷いによって長い後悔に苛まれる表題の作品「逡巡の二十秒と悔恨の二十年」、他者に与えることを目的とした理想郷「草食の楽園」、食用かどうかで食べる肉を選ぶ「食用人」など、全部で10作品が収録されています。ミステリー、SF、ホラー、(コメディ?)など、ジャンルはさまざまです。


目を覆いたくなる展開も多々あり、読了後は後悔と満足が入り混じったような後味が得られました。こんな体験、なかなかできないです。以下、各話の簡単なあらすじと感想です。


玩具

女友達を誤ってどぶに落とし、死なせてしまった話です。なんとか生き返そうと身体のあちこちを触ります。最後の1行の狂気がすごいです。


「ようぐそうとほうとふ」は『玩具修理者』を初めて、さまざまな作品に登場します。

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逡巡の二十秒と悔恨の二十年

子供の頃、友だちと川で遊んでいたときの20秒の迷いによって20年間の後悔に苛まれます。一縷の救いとも取れる結末がなんともいえない余韻をもたらします。

侵略の時

周りの人の言動がおかしくなったことに気づき、何者かに侵略されていることを疑います。生物の侵略は巡り巡ります。

イチゴンさん

一言の願いであれば叶えてくれる神様(イチゴンさん」の話です。小林泰三先生で神話をテーマにする話となれば、あの神話も出てくる傾向も強い気がします。

草食の楽園

他人の富を奪うのではなく、与えることを目的とした理想郷に不時着した話です。資源を安定して供給できるのであれば、争いのない世界を作ることができるのだろうか…

メリイさん

家の中にあった見知らぬ人形を捨てたら、深夜に「メリイさん」から電話がかかってきた話です。深いことは考えずに楽しんで読む作品です。


『幸せスイッチ』の「怨霊」という作品と同じような展開とオチです。

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流れの果て

途方もない時を旅し、待ち続ける話です。途方もない流れの果てに何を見いだすか…

食用人

食用か食用でないかで、食べる肉を選ぶ人の話です。モザイクな描画の連続で、全身に力が入らなくなりました…


「食べれば罪にならない」は『家に棲むもの』の「食性」に書かれています。

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吹雪の朝

台風に恐怖を感じる女性が、台風の来ない夫の故郷に住みます。導入がホラーだったので、ホラーと思っていたらミステリでした。毒についてひとつ賢くなりました。

サロゲート・マザー

代理母となる決心をして子供を産む話です。科学技術の発展と価値観の変化が相成れば、種の存続も可能となるのではないかと思います。