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『杜子春の失敗~名作万華鏡 芥川龍之介篇~』バッドエンドを回避するノウハウ


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物語には教訓があり、その教訓を生かせるかどうかは読者次第です。小林泰三先生の『杜子春の失敗~名作万華鏡 芥川龍之介篇~』は「物語の教訓」をテーマにしたような小説です。


本作は4編の短編で構成されており、それら4編は芥川龍之介が執筆した小説の世界と繋がった物語が展開します。「杜子春」「蜘蛛の糸」「河童」「白」に登場するキャラクターたちが、自身の境遇を語り、短編の主人公たちが抱える問題に干渉します。


物語の教訓を生かせるかどうか…そこに注目する小説でした。物語の教訓というのはバッドエンドを回避するためのノウハウのようなもので、教訓に従った人は救われて、従わなかった人は救われないという結果を辿る傾向が強いように思います。


以降に各話のあらすじと感想を簡単にまとめました。


杜子春の失敗

中学生の暁美は、智香にプレゼントをあげ、その見返りに智香から友達としての待遇を受けるという関係を続けています。そんな関係に悩んでいた暁美は、あるとき部屋の中からとある本を見つけます。そして、その本に登場する杜子春と対話できるようになり、杜子春に友達のことを相談します。


物の価値を通して繋がっている人間関係に、はたして価値はあるのだろうか。有事の時に助けてくれる人間関係にこそ価値がある、ということを学ぶことができる物語です。

蜘蛛の糸の崩壊

とある企業に勤めている乙骨寛太は上司から決算書を粉飾するように迫られます。粉飾を悩んでいる最中、自宅でとあるゲルマニウムラジオを見つけ、そのラジオを触っていると地獄にいる犍陀多(カンダタ)という人物と声がつながります。そして、お互いの世界の状況を交換しあいます。


決断を伴う行為をしようとしているのであれば、「その行為が自分にとって納得できるかどうか」を基準にして考えるのが良いかもしれないです。それが自身の正義につながると思います。

河童の攪乱

妊娠していることを恋人に伝えるかどうか悩んでいる羽田亜矢子は、あるきっかけで『河童』の世界の第二十三号と対話できるようになります。亜矢子は、第二十三号との対話の中で、河童の世界では腹の中にいる胎児に生まれ落ちたいかどうかを問い、その返事のあった胎児のみ生まれることを知ります。


Aを選択するかBを選択するか…選択権が自分にあって、どれか選択せざるを得ない時、選択に恐怖を伴う場合があります。選択の恐怖との向き合い方を学ぶことができる物語です。

白の恐怖

暁美をいじめていた祭田智香はスーパーマーケットで小遣い稼ぎのための悪事を働きますが、その様子を邪悪な人物によって録画され、恐喝されます。最悪な状況に陥った智香の前に、自分のことを「白」という黒犬であると主張する男と出会います。


悪に悪で対抗すると最悪になって跳ね返ってくる…そんな展開が見ものでした。邪悪には中途半端な悪で立ち向かってはいけない、そんな教訓が得られる物語です。改心の場が与えられると良いですけど。

小ネタ

この小説の所々に、小林泰三先生の他の作品に登場したものが描かれています。以下はファンであればニヤリとするものたちです。

ようぐそうとほうとふ

玩具修理者』に登場する人物の名前です。クトゥルフ神話の邪神を彷彿とさせます。

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レトロフューチュリア社

代表取締役アイドル』に登場する企業名です。社長の交代により大変なことになっています。

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新藤礼都

人を最悪な状況に陥れる才能を持った女性です。『密室・殺人』『クララ殺し』『因業探偵シリーズ』等に登場します。

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