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『美濃牛』日本の風土が創り出す牛と迷宮


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岐阜県の美濃の牛、そして迷宮…


ミノタウロス!?と思ったのが殊能将之さんの小説『美濃牛』です。石動戯作(いするぎぎさく)シリーズの第1作目です。


舞台は岐阜県の架空の村である「暮枝村(くれえだむら)」。その村にある鍾乳洞「亀恩洞(きおんどう)」には、どんな病でも直す「奇跡の泉」が存在すると噂されていた。


雑誌記者の「天瀬啓介(あませけいすけ)」は、村のリゾート開発を計画する石動戯作とともにその村を訪れます。その泉を取材しようとしますが、地主からは見学の承諾を得られなかったため、村を去ろうとします。


しかし、村を去る予定の朝、亀恩洞のそばの大樹で首のない死体が発見されます。そして、村に伝わるわらべ唄を彷彿とさせる事件に巻き込まれるというのが物語のあらすじです。日本の風土が創り出した牛と迷宮…その空気を堪能できる一冊かと思います。



そやから、あれは飛騨牛やない。飛騨牛になりそこねた、ただの美濃地方の和牛、つまり美濃牛よ


関係者以外から見える真実と、関係者内から見える真実、その2つの差異を楽しむような小説だと思います。関係者以外から見たら飛騨牛、関係者内から見たら美濃牛…例えばそんな違いが事件を迷宮に誘います。


都会のルールが邪魔をして田舎の風習を理解できないことがあります(逆もまた然り)。外から内を理解するというのはたいてい困難ですが、その困難を一つずつ乗り越えていくといった面白さが『美濃牛』にあるように思います。


また、節の始まりは牛と迷宮に関する引用から始まるのですが、そのバラエティの豊富さにも注目です。古事記吉幾三フィリップ・K・ディック広辞苑…多種多様な牛と迷宮に関する文章に、著者の熱意と魅力を感じます。調査力がすごいですぜ!


石動戯作シリーズの第2作目:
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