とある家族(辺野古家)に起こった惨劇を描いたホラー小説が小林泰三さんの『惨劇アルバム』です。父、母、娘、息子、祖父の5人を主役にした5編の短編に序章・終章が加わった構成です。
「人の思い込みの怖さ」というのが短編で共通したテーマとしてあると感じました。例えば母が主役の物語では「少しでもタバコの煙を吸ったら汚染される」という思い込みで理解のしがたい行動をしたりします。
思い込みの強さに起因する行動は、第三者から見れば狂気に感じることもある。『惨劇アルバム』はそんな怖さを堪能できる小説でした。
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/06/26
- メディア: Kindle版
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各章で主役となる辺野古家の人は次のようになります。
章 | 主役 |
---|---|
序章 | 娘 (美咲) |
幸福の眺望 | 娘 (美咲) |
清浄な心象 | 母 (七奈) |
公平な情景 | 息子 (福) |
正義の場面 | 祖父 |
救出の幻影 | 父 (迩) |
終章 | 娘 (美咲) |
幸福の眺望
美咲が子供だった頃の記憶を思い出します。しかし、その思い出は自分が死んだ記憶であって…
過去の思い出が信じられないものだとすると、自分の記憶があやしい可能性もあります。思い出に対して妄想と現実の区別がつけられているだろうか?記憶という不確かさに怖さを感じる話です。
清浄な心象
汚れのない完璧な子供を産むために頑張る話です。少しでも有害と感じるものを摂取したのであれば中絶する、そんなことを繰り返した先には…
タバコの煙や食べ物に含まれる添加物など、今の社会では有害そうな物を完全に断つのは難しいです。妥協を許せないというのは狂気と表裏一体な気がします。
公平な情景
とあるクラスルームで先生が公平について語ります。生徒の辺野古は「両方の希望を半分ずつ適える」という公平性を守りながらある喧嘩を仲裁しますが…
公平という体裁を取りながら、ただ一方的な主張を貫くような内容に後味の悪さを感じます。教育を間違えると大変なことになるという話です。
正義の場面
お風呂場で意識を失ったおじいさんは、次に気が付いた時には浮遊霊となっていた。しばらくした後に、現実の物を動かす力を身につけて…
幽霊というと、大多数の人には見えないため、何をしても罰せられないような存在です。そんな存在に意識があるのであれば、社会は悲惨なことになりそうです。
救出の幻影
父は子供の部屋で日記の書かれたノートを見つけます。ページをめくると、そこには「怪物」をある建物に閉じ込めたとの記述があり…
子供の頃は善悪の判断がつきにくく、善悪の程度も分からないものです。大人視点で見ると、その善悪の無知さに時々怖いものを感じます。
終章
美咲は家族の物語を確認し終えた後、美咲が思考の末にたどり着いた真実を母に伝えます。そして、凄惨な事件に巻き込まれた辺野古一家の物語が終わります。
人生の中で凄惨なことを何度か体験すると思いますが、その対応を間違えると後々になって報復されることになりかねないです。そんな警句を感じました。
惨劇関連:
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