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記憶を飛ばす勇気ある?『アイリウム』


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記憶を飛ばす、そんな状態を意図的に作り出せたら…


飲んでから24時間分の記憶をなくす薬「アイリウム」。そんな薬をテーマにした漫画が小出もと貴さんの『アイリウム』です。1巻完結、全7話のショートストーリーです。


記憶を無くすなんて怖くてできないですよね。。けれども、これから迎えることが嫌な記憶になると分かっていたのであれば、「アイリウム」に頼りたくなる気持ちは分からなくもないです。


例えば、戦場の兵士であればこれから赴く戦場の怖さを払拭するためにアイリウムを服用します。執刀医は術死に立ち会う記憶を無くすために服用します。嫌なことがあらかじめ分かっているのであれば需要はありそうです。


用法用量を守って正しく使えば有用だと思いますが、まぁ人間が使うので、ときには正しく使われないです。『アイリウム』はそんな状況が生み出すドラマが楽しめる漫画です。


アイリウム (モーニングコミックス)

アイリウム (モーニングコミックス)


File001 映画監督志望

映画監督志望の峰雄(27歳)は、自主制作の作品を作り続けていたが大きな賞を獲れずにいた。焦燥と憔悴の中、アイリウムという薬の存在を知り…


夢を追いかけている自分の状況と、安定した職業についている同級生達とを比較すると、やっぱり不安になりますよね。そんな不安な日々も、後から振り返ればきっと価値のあるモノのはず。消すなんてもったいない。

File002 兵士

兵士の最盛期は戦場に入ってから一ヵ月(と言われている)。アイリウムを利用するとその一ヵ月という状態をずっと維持できます。アイリウムによって最盛の状態を維持し続ける兵士の話です。


戦場の兵士というとPTSD心的外傷後ストレス障害)の問題が思い浮かびます。アイリウムはその問題に対して有効のよう思いますが、人間性のような何か大切なものを犠牲にしているのは変わりないわけで…

File003 ママ友

主婦4人のママ友会で、アイリウムを全員で飲んだ後に自分の秘密を打ち明ける「告白会」を行うようになります。ある日、他のママ達が何を行っているかを知りたくなり…


他人の秘密を安易に知ろうとしてはいけない、そんな警句が得られる話です。他人の秘密や劣等感を知るということは、その重さを自分も受け入れるということなのかもしれない。

File004 ロックンローラー

ロックンローラーの父と娘の話です。父はすでに離婚しており、娘とは定期的に会う関係でしたが、ある日、娘から「今日で会うのをやめたい」と言われます。後悔しないために、父と娘の最後の夜はアイリウムを服用します…


アイリウムを服用した後に父親から離婚の真相を語られるのですが、この内容がとてもせつないです。記憶の連続性には替えようのない価値がある、そんな大切なことを認識する名作です。

File005 ホスト

ホストクラブのオーナーにたびたびアイリウムを盛られるホストの話です。記憶をなくしている間にオーナーからの借金がなぜか増えています。借金をなんとかするために、同じく借金で苦しんでいるホストと協力して…


アイリウムを飲んでいる間に交わした契約は無効にするという法整備がないと社会は大変なことになりそうです。契約が有効なのであればやりたい放題です。アイリウムが悪用される裏の世界を描いた話でした。

File006 女医

インオペ(手術不能)症例のオペを担当する女医の話です。術死に立ち会うという嫌な記憶を残さないため、他の医者はアイリウムを服用しますが、女医はプロとしての責任から薬を服用せず…


記憶を無くすということは得られたはずの経験値も捨てるということです。その経験が次の成功に寄与する可能性があるのであれば、逃げることをしない。そんな信念を感じる話でした。

File007 研究者

アイリウムを作った仁科教授とその教授に協力してきた男性(真田)の話です。高齢となった教授のもとに真田が訪れます。しかし、真田には教授から「3年教授に尽くせば常勤の准教授にしてくれる」という約束を反故された過去があり…


研究には、例えば「自分の作った薬で人を救いたい」といったような理想があります。理想が実現したのであれば、それはとても嬉しいことでもありますが、その実感を確かめる手段を間違えてはいけないです。