マイナー・マイナー

隠れた名作の発掘が生きがい。

『シリウスの痕』少女型サイボーグは人間の心を思い出すか

サイボーグというと痛みがないイメージがあります。


けれども、肉体を失ったことによって分かる痛みというものがあると思います。人間ではなくなったことによる喪失感みたいな痛み、それがひとつのテーマにあるような漫画が『シリウスの痕』です。


シリウスの痕』は、あと7日間しか生きられないサイボーグの少女(橘小夜子)が、絶望的な状況を生き抜いていく系のバトル漫画です。1999年に月刊少年エースで連載されていました。隠れた名作SFです。


Kindleストアで発売されていたので、懐かしいなーと思い、衝動的にポチリました。再読したときに初めて気付いたのですが、副題がすごくいいです。

I hope you still remember me.


この副題を意識しながら読むとまた違う視点で楽しめました。初めて読んだときは「サイボーグもの熱いぜ!」だった感想が、「うわ、これ、せつない!」ってなりました。


もし自我を取り戻した時、自分の身体が機械になっていたとしたら、どんな感情をもつだろうか。なおかつ7日間しか生きられないという現実を突きつけられた時、どんな感情が湧き上がってくるだろうか。


シリウスの痕 1巻

シリウスの痕 1巻


どんなにみっともなくても 足掻いても 生きる方を選んだんだ


もしあと7日間で死ぬよって言われたらならば、どういった生き方を選択するだろうか。かつて人間であったように、人間として生きていきたい、サイボーグとなった姉はそう決意し、弟と一緒に過ごすことを選択をします。


死が間近になったとしたら、次の世代へ思い出や記憶、財産を残す人が多いのではないかと思います。それは、自分が人間であったことを残される人に伝えたいという、人類の意志の表れなのではないかと思うのです。

I hope you still remember me.


せつない物語です、『シリウスの痕』。。


関連:
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『百舌谷さん逆上する』ツンデレの裏に隠された感動的な何か

ツンデレなヒロイン(百舌谷さん)に振り回される人々を描いた漫画、それが『百舌谷さん逆上する』です。


この漫画で言うツンデレとは「ヨーゼフ・ツンデレ博士型双極性パーソナリティ障害」のことで、誰かと仲良くしたいとか思った時に普通の人とは逆に攻撃的な言動や行動をとってしまう症状のこととしています。この設定がすごいです。


一般的なツンデレというと、最初は敵意(ツン)を持っていてそれがあるきっかけで好意(デレ)に転じる属性を想像します。けれど、この漫画でいうツンデレは、好意(デレ)が先にあってそれを隠すために敵意(ツン)を向ける症状です。


この独特な症状に葛藤する内容が、一般的なツンデレ作品とは違った味わいを出していて面白かったです。ツンの奥にあるデレに気付いた時、なんだかよく分からない感動に満たされます。普段はコメディな展開だけど、シリアスな展開で泣かされる、そんな不思議な内容です。



ちゃんとあるのよ ゴミクズにはゴミクズなりのふさわしい生き方が


ツンデレな話になんだかよく分からない感動もしますが、歯に衣着せぬようなツンな言い回しにもなんか感動します。心をわしづかみにされます。


例えば「思い出のリセットちゃん」という話で、葛原未来(くずはらみく)という女性が登場し、あるきっかけで死にたくなります。それを止めようと百舌谷さんが言った言葉が上の言葉です。この言葉の続きが熱かったです。


自分のことを卑下しがちな人は、自分の存在が社会に不要と勝手に決めつけてしまいがちです。けれども、たとえ自分が最低な人間であったとしても、その社会に対して何かしらの抵抗をすることはできる。そんな内容の励ましの言葉が胸が熱くなりました。


百舌谷さん逆上する』は自分のことをゴミクズだと思っている人がツンデレに救われる漫画のように思います。自分が嫌になった時、この漫画をまた読み返そう!

『マインド・クァンチャ』忘れることで強くなる、そんな剣士像に惚れます

ヴォイド・シェイパ』シリーズの5作目『マインド・クァンチャ』。著者の森博嗣さんのページによると、

これでシリーズ完結としても良いと思っています。次も書くかどうかは、まだ決めていません。


とのことなので、おそらくはこの巻で完結です。「剣士の生き方、格好良い!」を感じる小説でした。


『マインド・クァンチャ』の英題は「The Mind Quencher」です。Quencherとは抑制とか消すとかいう意味です。和訳すると「心を抑制する者」です。


今までのシリーズのタイトルをまとめると、次のようになります。

邦題 英題 和訳
1 ヴォイド・シェイパ The Void Shaper 虚空を形作る者
2 ブラッド・スクーパ The Blood Scooper 血をすくう者
3 スカル・ブレーカ The Skull Breaker 頭蓋を破壊する者
4 フォグ・ハイダ The Fog Hider 霧に隠れる者
5 マインド・クァンチャ The Mind Quencher 心を抑制する者


振り返ってみると、『ヴォイド・シェイパ』シリーズは「守破離」の流れを辿っているように思いました。1、2巻では剣士の本質を確認する話、3、4巻では強者と戦って成長する話です。そして最後の5巻では、一度負けることで新しい境地に立つ、そんな内容のように思いました。



不足しているものは、無だった。
唯一必要だったのは、無だ。


失うことで強くなる、そんな物語がたくさんあります。その理屈はなんとなく分かります。


自分が大切だと思って蓄えているもの(例えばお金)があるとします。その大切なものが増えると、それを守る労力も増えていきます。そして新しい価値巻を取り入れる余力がなくなり、いつしか「貯めているものの大きさ=強さ」という信仰につながっていきます。


大切なものが無くなった時、本当に大切なものが何だったのかを考える余力が生まれます。そして、その考えた結果が次の強さにつながっていきます。『マインド・クァンチャ』は戦いに負けて次の強さを得る、そんな物語のように思いました。


あと、ノギさんのシーン感動です。うるってきます。いい結末でした。


関連:
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【ラプラス捕獲の旅】石巻、秋保、仙台を散策してきました

石巻ラプラスが大量発生している!」

というわけで行って来ました。ついでに観光もかねて秋保、仙台も散策してきました。

  • 11/19(土)
  • 11/20 (日)
    • 秋保温泉 ホテル華乃湯(後)
    • 仙台
    • ずんだシェイク
  • まとめ
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迷走中の30代におすすめ!松本次郎先生の名作漫画10選+1

松本次郎先生の大ファンです。気がつけば漫画レビューも10記事ほど貯まりました。


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松本次郎先生の漫画に共通して通じる特徴と言えば、「混沌とした世界で迷走する」ところにあると思います。荒廃したビル、混乱した人々、暴力とエロス、それらが織り交ざった世界で何かを探して迷走するような物語が多いです。


この迷走感は、きっと同じく迷走している30代の心にぐさっと刺さると思います。社会の中で自分が何のために生きているか分からなくなったのであれば、この迷走感の先に目指すべきもの答えがあるかもしれないです。


そんな迷走感のある漫画を出版順にまとめました。

  • ウエンディ
  • 熱帯のシトロン
  • フリージア
  • 未開の惑星
  • ゆれつづける
  • 革命家の午後
  • べっちんとまんだら
  • 善良なる異端の街
  • 地獄のアリス
  • 女子攻兵
  • 闘鈴
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