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隠れた名作の発掘が生きがい。

『玩具修理者』生命や時間といった曖昧な実体に潜む何かにぞわぞわする


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玩具修理者』は小林泰三著のホラー短編小説です。学生の頃に読んだ小説なのですが、独特の論理展開やまとわりつくようなぬめりみたいなものが強烈で、その印象が頭にこびり付いていまだに離れないです。


動いている、時間が進んでいるというのは不思議な感覚で、一度深く考え込んでしまうと戻れなくなってしまうような危うさがあったりする。そんなテーマを『玩具修理者』に感じます。「生命の定義」や「時間の概念」を裏側から攻め入って覆すような物語が素敵すぎました。


玩具修理者 (角川ホラー文庫)

玩具修理者 (角川ホラー文庫)


玩具修理者

「その時計には生命がなくて、人間には生命があるとどうして言い切れるの?」


「ようぐそうとほうとふ」と呼ばれる玩具修理者が壊れたものを治す話です。クトゥルフ神話という実体を読む前は知らなくて、読んだ後は何かの眼が開くような感覚に襲われました。こんなにグロくてぞわぞわする文体があるだなんて。。


生物と無生物の境界を引くことができるのだろうか、というテーマを感じます。今の科学では生命を明確に定義できていないし、だから生命がないと思い込んでいるものが動いたりすると恐怖を感じたりするのだろうと思います。


酔歩する男

「わたしはわたしの主観からは逃れられないのです。あなたの主観の中でわたしが救われようと、わたしにはどうでもいいことです」


未来や過去に酔歩できるようになった男の話です。「シュレディンガーの猫」系なタイムトラベルものの先駆となるような小説のように思います。『Never7』とか『バタフライ・エフェクト』などの作品を思い出します。


タイムトラベルもの作品の多くは主観的な視点のものだと思います。おそらくは、過去や未来の描写を第三者の視点から語れば不整合が出やすいからだと思います。時間を時間として認識している視点は主観的な枠から抜け出せない、そんな法則を学べた小説でした。