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奇妙な論理好きにおすすめ!小林泰三先生の名作小説30選


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小林泰三先生はホラー、SF、ミステリーとさまざまなジャンルの小説を書いています。ジャンルは違っていても、共通して「論理展開」が大きな魅力としてあります。受け入れ難い仮説をさも真実であるかのように説得させられる…そんな論理展開力が癖になります。


ホラーであれば奇妙な論理が展開されて徐々に追い詰められる怖さを体感できます。SFであれば科学と論理に基づいた素敵な世界に魅了されます。そして、ミステリーであれば強力な論理的思考で真相にたどり着きます。


そんな論理展開が魅力的な小林泰三先生の小説を30冊紹介します。ホラー、SF、ミステリーに区分して、それぞれ10選ずつ紹介します。*1


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ホラー

玩具修理者

玩具修理者」と「酔歩する男」の2編からなる短編です。「玩具修理者」では頼めばどんなものでも直してくれる存在がとあるモノを直します。「酔歩する男」ではある男が未来や過去に無作為に移動してしまうようになります。


「動いている」「時間が進んでいる」という不思議な感覚を追求すると奇妙な真実にたどり着きそうですよね…恐怖と表裏一体のそんな真実がとても魅力的な小説です。


『玩具修理者』生命や時間といった曖昧な実体に潜む何かにぞわぞわする - マイナー・マイナー


人獣細工

3編の短編集です。豚の臓器や皮膚などを移植した少女の話「人獣細工」、8歳の少年が吸血鬼と戦う物語「吸血狩り」、読むと発狂する本をめぐる物語「本」が収録されています。


どの物語も人間の不完全さがあぶり出されるような内容です。人間は他の生き物と比較すると完成されていると思い、不完全な部分に目を背けがちです。その不完全な部分が浮き彫りにされる小説です。


人間の不安定な部分があぶり出される恐怖『人獣細工』 - マイナー・マイナー



肉食屋敷

4編の短編集です。怪獣小説「肉食屋敷」、西部劇「ジャンク」、サイコスリラー「妻への三通の告白」、ミステリー「獣の記憶」と、さまざまなジャンルの小説が収録されています。


エグい描写は控えめでしたが、気がつけば眉間にしわが寄るような内容でした。人間の持つ「不快」と感じる器官を直接刺激するような、そんな一風変わった怖さを感じる小説です。


バラエティ豊富な不快をどうぞ『肉食屋敷』 - マイナー・マイナー


家に棲むもの

7編の短編集です。引っ越した家で誰か気配を感じる「家に棲むもの」、肉食を制限された夫の話「食性」、お祖母ちゃんが語る思い出話「お祖父ちゃんの絵」などが収録されています。


人は何かしらの不都合な真実は無意識のうちに見ないようにしています。今まで見ないようにしてきた不都合な真実が明らかになる恐怖…そんな怖さが感じられる小説です。


『家に棲むもの』身近に得体の知れないものがいる恐怖感 - マイナー・マイナー


脳髄工場

11編の短編集です。人工脳髄が普及した社会を描く「脳髄工場」、カウンセリングした記憶のない男性にまつわる物語「影の国」、同棲生活で彼女が作るお菓子の話「タルトはいかが?」などが収録されています。


自分の存在の正体、住所しか書いていないビデオテープの中身、美味しいお菓子の成分…興味本位で調べて後悔することはたくさんあります。そんな知らなければ幸せだった話が満載の小説です。


知らなければ良かった話が満載『脳髄工場』 - マイナー・マイナー


忌憶

忌憶 (角川ホラー文庫)

忌憶 (角川ホラー文庫)

「奇憶」「器憶」「垝憶」の3つの短編で構成されています。どの話も「記憶の不確からしさがもたらす恐怖」を体感できるような内容となっています。


人は見聞きしたことの大半は忘れており、記憶を思い出す時に足りない部分を想像力で補っているようです。その足りない部分にある隠しておきたい真実を見学するような小説です。


記憶の不確からしさは追求しない方が良いかも『忌憶』 - マイナー・マイナー


臓物大展覧会

9つの短編+プロローグ・エピローグの小説です。凄い理論で透明になった女性の話「透明女」、公園で遊んでいた三人が誘拐される話「攫われて」、神の存在について口論する「悪魔の不在証明」などが収録されています。


タイトルから察する方向のホラーです。臓物と聞くと負のイメージを持ちやすいですが、生物にとっては重要な器官でもあります。そんな真実を知ると、臓物も愛らしく見えてくるのではないかと思います。


モザイクいっぱい!『臓物大展覧会』 - マイナー・マイナー


セピア色の凄惨

セピア色の凄惨 (光文社文庫)

セピア色の凄惨 (光文社文庫)

ある"奇妙な依頼"を探偵が調査します。その調査報告という形で4つの物語が探偵から依頼人に報告されます。4つの報告が終わったとき、"奇妙な依頼"の真実が明らかになります。


タイトルの通り、4つ物語の結末は第三者から見るとどれも凄惨です。しかし、当事者はその凄惨さを気にしていないように見え、それが不思議な怖さを生み出しているように思います。


異常な思想が行き着く先は『セピア色の凄惨』 - マイナー・マイナー


百舌鳥魔先生のアトリエ

7編の短編集です。頭部がなくなったけれども動く「首なし」、闇の者に召喚される「兆」、生物を材料にした芸術がつくられる「百舌鳥魔先生のアトリエ」などが収録されています。


人型の面影を残して異形なものへとなっていく…そんな恐怖が題材にあるように思います。別の可能性へと変化した人型を見ると、自分もそんな可能性になり得るという怖さを感じます。


人のようなものがいっぱい『百舌鳥魔先生のアトリエ』 - マイナー・マイナー


惨劇アルバム

惨劇アルバム (光文社文庫)

惨劇アルバム (光文社文庫)

辺野古一家に起こった惨劇を描いた作品です。父、母、娘、息子、祖父の5人をそれぞれ主役にした短編が収録されています。物語は、なぜか幸せな記憶しかないという娘の疑問から始まります。


「人の思い込みの怖さ」を描いた物語だと思います。思い込みの強さによって行われる行為は、第三者から見れば狂気に感じることもあります。そんな狂気を感じた小説でした。惨劇注意です。


人の思い込みって怖いよね『惨劇アルバム』 - マイナー・マイナー


SF

AΩ 超空想科学怪奇譚

真空と磁場とプラズマからなる世界の生命体「ガ」は、影の世界から現れた住人を追って地球にたどり着きます。そして、地球の住人「諸星隼人」の身体を借りて、住人の追跡を続行します。


神様が地球に顕現したとき何が起こるだろうか。人智の及ばない存在が人類の目前に現れたのであれば、人類は否でも応でも変化すると思います。人類がたどり着く終末のひとつの可能性…それを見学できる物語です。


『AΩ 超空想科学怪奇譚』終わりと始まりが否応なしに訪れたら - マイナー・マイナー


海を見る人

海を見る人

海を見る人

7編の短編集です。時間の流れの異なる場所に住む人々を描いた「海を見る人」、仮想世界のコンピュータ資源が枯渇している原因を探る「キャッシュ」、宇宙空間に現れた門をめぐる物語「門」などが収録されています。


様々な異世界を堪能できる小説です。ある時間の断面だけを見る視点だけだと分からなかった真理が、もっと長い時間の幅を見る視点で見ると分かる…そんな不思議な感覚が味わえました。


『海を見る人』異世界間でも変わらない何かに惹かれます - マイナー・マイナー


ネフィリム 超吸血幻想譚

人間と吸血鬼のいる世界に、吸血鬼を簡単に葬れるほどの力を持った「ストーカー」という存在が現れます。人間、吸血鬼、ストーカーが互いの存続をかけた戦いを始めます。


単純な腕力では吸血鬼やストーカーに叶わない人間。けれども、情報を収集し分析して弱点を突く戦略が取れるのも人間であり、そんな戦略が立てられる知恵と科学技術の力が人間の強みとも思います。その強みを堪能できる物語です。


吸血鬼を分析して対処『ネフィリム 超吸血幻想譚』 - マイナー・マイナー


天体の回転について

天体の回転について

天体の回転について

8編の短編集です。科学に憧れた青年が経験する軌道エレベーターに搭乗する「天体の回転について」、長期記憶を外付けメモリに保存する人々の物語「盗まれた昨日」、過去が奪われる「時空争奪」などが収録されています。


「科学と理論」は社会を発展させたり維持するための礎だと思います。この小説では、その礎を構成するさまざまな「科学と論理」の魅力がたっぷり堪能できると思います。


科学と論理がぎゅっと詰まったハードSF 『天体の回転について』 - マイナー・マイナー


天獄と地国

天獄と地国

天獄と地国

頭上は大地、眼下は星海…そんな環境に人々は住んでいます。その世界には人々から資源を奪う空賊がいて、そして空賊の取りこぼしを目当てに彷徨う落穂拾いがいます。その落穂拾いの1人が楽園を目指します。


見つけた情報を分析し、その結果を確かめるために行動する。その行動を起こせる源泉は、真実を突き止めたい探究心にあると思います。心の奥に眠っている探究心を喚び起させる熱い物語です。


地の楽園を目指す旅 『天獄と地国』 - マイナー・マイナー


人造救世主

人造救世主シリーズの1作目です。ある寺院で破壊活動をする敵に、主人公の男「ヴォルフ」が立ち向かいます。強大な超能力を持つ敵集団 VS 超能力を持たないヴォルフの戦いが幕を開けます。


強大な超能力者を論理的思考力で打ち破る展開は読んでいてスカッとします。周囲の状況を的確に分析して勝つための最適な戦略を遂行していく…そんな戦闘描写が楽しめる物語です。


『人造救世主』論理的な超能力バトルが熱い! - マイナー・マイナー


人造救世主 ギニー・ピッグス

人造救世主シリーズの2作目です。クローン達が住む<家>から強力な超能力が芽生えなかったクローン達が逃げます。その後を超能力を持つクローン達が逃げ出したもの達を処分するために追いかけます。


ギニー・ピッグスとは実験材料(モルモット)のことであり、これはクローン達のことを示しているように思います。クローン達を争わせることによって優良な個体が選別される…そんな淘汰劇が繰り広げられます。


『人造救世主 ギニー・ピッグス』実験材料達の淘汰バトルが始まる! - マイナー・マイナー


人造救世主 アドルフ・クローン

人造救世主シリーズの3作目(完結巻)です。主人公「ヴォルフ」がクローン達を作っていた謎の組織「MESSIAH」に繋がる研究室に潜入し、そして組織の黒幕と対峙します。


「英雄」とは何か…そんなテーマがあるように思います。英雄とは、周りから評価されるような行動をした人ではなく、誰からも評価されなくても正義を貫いて行動した人のことをいうのかもしれないです。


『人造救世主 アドルフ・クローン』どうあがいても死ぬよこれ! - マイナー・マイナー


見晴らしのいい密室

見晴らしのいい密室

見晴らしのいい密室

7編の短編集です。この世界はすべて自分の見ている夢と語る女性の物語「目を擦る女」、マッドサイエンティストが作ったタイムマスィーーーンを描いた「未公開実験」、そろばんで計算される世界を描いた「予め決定されている明日」などが収録されています。


論理的にはあり得そうな奇妙な世界を楽しめる小説です。感覚的には納得いかないけれども、論理展開で説得されてしまう、そんな不思議な体験が得られます。


説得力のある奇妙な論理展開が素敵『見晴らしのいい密室』 - マイナー・マイナー


失われた過去と未来の犯罪

ある日突然に全人類が長期記憶できなくなる現象に見舞われます。人類はこの現象にどう対処し、そしてどのような結末を迎えることになったか…さまざまな視点で語られる、記憶と記録の物語です。


人類は、長期記憶ができない現象の解決策として、長期記憶を半導体メモリに記録できる技術を開発します。記憶と身体が付け替え可能の社会…そんな世界に住まう人々の物語が素敵すぎました。


長期記憶できない系小説の究極系『失われた過去と未来の犯罪』 - マイナー・マイナー


ミステリー

密室・殺人

密室・殺人

密室・殺人

ある雪山の別荘で女性が墜落死する事件が起きます。その女性がいたはずの部屋は密室となっており…そんな奇妙な事件をとある探偵事務所の助手「四ッ谷礼子」が調査します。


論理的思考で解く事件が見どころです。事件の条件から演繹的に犯人を導くプロセスがすごく面白いです。クトゥルフ神話の要素もあるので、そっち方面が好きな人にもオススメです。


『密室・殺人』論理的思考で謎を解く快感! - マイナー・マイナー


大きな森の小さな密室

7編の短編集です。森の中の別荘で起きた密室殺人事件「大きな森の小さな密室 」、死亡推定時期は150万年前の殺人事件「更新世の殺人」、同じ場所に不定期に落ちているパン屑の理由を探る「路上に放置されたパン屑の研究」などが収録されています。


個性的な人々の事件解決劇を堪能できる小説です。不可能と思える犯罪専門の「超限探偵Σ」、バカと一緒にいるのが大嫌いな「新藤礼都」等々、他の作品でも登場する人物が活躍(?)する様が面白いです。


モザイクな探偵達『大きな森の小さな密室』 - マイナー・マイナー


完全・犯罪

完全・犯罪

完全・犯罪

5編の短編集です。博士が自身の研究成果を取り戻すためにタイムマシーンを使用する「完全・犯罪」、殺された愛しい人の仇討ちをする「ロイス殺し」、やりすぎなドッキリ番組「ドッキリチューブ」などが収録されています。


時として人は憎悪を抱く相手に報復をしたいことがあります。論理的な思考ができる人であればうまく感情を制御して復讐を遂げると思いますが、倫理的には正しくないことが多いので、多くは後味の悪い結果になりそうです。


邪なたくらみに満ちたホラー・ミステリー『完全・犯罪』 - マイナー・マイナー


アリス殺し

アリス殺し

アリス殺し

地球にいる「栗栖川亜理(くりすがわあり)」は不思議の国の世界の夢を見ます。その不思議の国ではアリスがハンプティ・ダンプティの殺害容疑をかけられます。地球と不思議の国を行き来しながら事件の真相を追究します。


不思議の国にいる住人たちは時々チグハグな会話をするのですが、その描画がすごく楽しいです。奇妙な論理展開に巻き込まれる面白さが群を抜いて良いです。伏線回収もすごくて、最後まで引き込まれっぱなしでした。


『アリス殺し』チグハグな会話に巻き込まれる感じがすごく楽しい! - マイナー・マイナー


クララ殺し

不思議の国のアリス」にいたビルは「ホフマン宇宙」に迷い込み、そこでクララと出会います。そのクララには殺人予告の手紙が届いており、その調査をビルが行うことになります。「アリス殺し」の姉妹編です。


ホフマン宇宙と地球を行ったり来たりしながら徐々に登場人物の関連性が明らかになる…その推理の過程が見所です。ハイレベルな論理的思考力が試される小説です。


『クララ殺し』登場人物達の繋がりが見破れそうで見破れない - マイナー・マイナー


幸せスイッチ

幸せスイッチ (光文社文庫)

幸せスイッチ (光文社文庫)

6編の短編集です。貯金の多さに幸せを感じる「勝ち組人生」、大事でないものが次々と破壊されていく「どっちが大事」、脳が感じる幸せな状態を自由に切り替えられる「幸せスイッチ」が収録されています。


幸福と犠牲がテーマにあるような小説です。大切なものは人それぞれ違います。そしてその大切なものを守るために何かを犠牲にするときもあります。その犠牲の価値に気づかないことが幸せ本質なのかもしれないです。


『幸せスイッチ』今の幸せは、他のより良い幸せに気づけなかった結果でしかない - マイナー・マイナー


記憶破断者

記憶破断者 (幻冬舎単行本)

記憶破断者 (幻冬舎単行本)

記憶が数十分しか持たない「田村二吉」は、生活に必要な情報を記録するためのノートを肌身離さず持っています。ある時、そのノートをめくると「今、自分は殺人鬼と戦っている。」との文章が書かれています…


前向性健忘症の主人公 VS 記憶を上書き出来る殺人鬼。圧倒的に不利な状況にも関わらず、推測だけで殺人鬼を追い詰めていく過程がとても熱いです。生き抜くための必死さが直に伝わる作品です。


『記憶破断者』推測で殺人鬼を追い詰めていく過程にしびれます - マイナー・マイナー


安楽探偵

安楽探偵 (光文社文庫)

安楽探偵 (光文社文庫)

思い込みが激しい依頼人達を相手にする探偵小説です。探偵事務所に訪ねてきた依頼人の話を聞いただけで依頼を解決するという安楽椅子探偵もので、1話ごと完結の全6話構成です。


思い込みが激しくて論理が通じないような人とのコミュニケーションは厄介かと思います。そんな人達と、論理的で非の打ち所がない探偵との会話が面白い作品です。


思い込みが激しすぎる依頼人達に耐えられる?『安楽探偵』 - マイナー・マイナー


わざわざゾンビを殺す人間なんていない。

活性化遺体(通称:ゾンビ)が外を歩いているのが日常となった世界が舞台です。ゾンビ研究所の職員が参加するパーティーで、主幹研究員がゾンビとなります。その原因を探偵が探ります。


我の強い会話が面白いです。どちらが妥協すれば先に進むのにっていう会話を楽しめます。また、「人間が死ねばゾンビになる」という設定に関連したトリックも見所です。


ゾンビトリック炸裂『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』 - マイナー・マイナー


因業探偵~新藤礼都の事件簿~

因業探偵?新藤礼都の事件簿? (光文社文庫)

因業探偵?新藤礼都の事件簿? (光文社文庫)

新藤礼都は探偵業を始めようとします。開業資金を稼ぐために様々なバイトを始めますが、先々で倫理が破綻しているような事件に巻き込まれます。プロローグ+6つの短編の構成です。


新藤礼都が論理や理屈で事件の関係者を弄ぶ様子が面白いです。最高潮の時に突き落とせば面白いので、最高潮になるよう計画を実行して然るべきタイミングで突き落とす、そんな展開に興奮すると思います。


『因業探偵~新藤礼都の事件簿~』論理的思考で弄ぶ快感! - マイナー・マイナー


まとめ

Kindleストアで電子書籍として購入できる小林泰三先生の小説をホラー、SF、ミステリーに分けて紹介しました。『世界城』、『ウルトラマンF』、『ドロシイ殺し』など、面白そうな小説が続々と出ているのですが、これらはまた次の機会に紹介します。

*1:ジャンルが混ざっている小説もあるため厳密な区分けではないです。個人的な整理の結果です。