しばらくぶりに五十嵐大介さんの漫画『そらトびタマシイ』を読みました。全部で6編からなる作品集です。いやー、心に響くものがありますよ。
命を糧にして今の命がある…そんなテーマを感じる作品集です。例えば、表題の「そらトびタマシイ」では食事シーンが細かく描かれるのですが、その描写からは命に感謝する様子が伝わってきます。今の自分は他の命の支えによって生きている…そんなことを思い出させるような物語が楽しめます。
以下、各話のあらすじと感想です。
産土 (うぶすな)
薪を取りに山に入ったら不思議な存在に出会います。そして、集めていた薪がその存在に持っていかれます…山の強さを感じるような話です。
そらトびタマシイ
主人公の女性は地面に落ちていたフクロウのヒナを気付かずに踏み潰してしまいます。その翌日、頭から羽毛が生える異変が起きます。その羽毛が生える量は時間が経つにつれて多くなっていきます…
まだ残っていた雛の温もりがだんだん冷たく固くなっていく
まるでわたしのてのひらから雛の命を吸い取っているような そんな想いに囚らわれた
この導入に心を掴まれました。命の責任を求めるような導入です。もし魂があるならば、命を奪われた生物の魂は奪った生物にくっついていく性質がある気がします。
熊殺し神盗み太郎の涙
熊の首をへし折るほどの力を持った少年「太郎」は、人を殺めてしまったことで村にいられなくなり、山を転々とする生活をしていました。ある時、とある山に踏み入れた太郎は不思議な少女と出会います…
力を望み通りに使えない苦悩を描いたような内容です。太郎のやりきれなさが印象に残る、大人向けの無情な昔話です。
すなかけ
通勤電車に乗り込んだ女子学生は、この電車がどこまで行くのか気になり、そして沿岸のあるどこかへ行き着きます。そこで体から砂を出せる特異体質の女性「珠子」と出会います…
特異体質の苦労話は心に刺さるようなものがあります。それを思うと、女子学生が以前に感じていた問題はちっぽけなもののように見えてきます。
le pain et le chat (ル パン エ ル シャ)
パン屋の店長はパンを盗もうとした子供を捕まえます。子供の手が引っかき傷だらけであることに気づいた店長は子供の家を訪れます。その家には一匹の猫だけがいる状況でした…
タイトルはフランス語です。日本語に直すと「パンと猫」という意味です。パンと猫によって大切にしていたものが思い出される…そんな内容に素敵なものを感じます。
未だ冬
人が登ってはいけないと言われる山をある男性が登っていき、そして冬帝に飲み込まれます。雪女を思い出させるような、大人向けの無情な昔話です。