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隠れた名作の発掘が生きがい。

『幸せスイッチ』今の幸せは、他のより良い幸せに気づけなかった結果でしかない


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何を大切にしているかは人それぞれであって、時にはその大切なもののために他の何かを犠牲にしたりします。しかし、犠牲はあっても、その大切なものが守れたのであれば、それはきっと幸せなことなのだろう。小説『幸せスイッチ』にはそんなテーマを感じます。


ただ、小林泰三さんの小説ということもあって、犠牲にするものが凄まじいのです。例えばお金を貯めるために私生活を犠牲にするストーリーがあるのですが、その私生活の描写は目を覆いたくなります。「本当にそれを犠牲にしてよかったのか?」という感傷が尾を引いて残りました。


幸せスイッチ (光文社文庫)

幸せスイッチ (光文社文庫)


本作は6つの短編からなっています。(以下ネタバレ多い)


怨霊

メリーさんはわたしの居場所を正確に把握している。だとしたら、メリーさんの正体は一つしかあり得ない。

超限探偵Σシリーズです。今回は都市伝説ホラー「メリーさん」を題材にした怪奇現象から依頼人を救うためにすごい行動をとります。深いことは考えずに楽しんで読む作品です。なんやそれっていうオチです。



勝ち組人生

もちろん、金は幸福そのものではない。だが、それは幸福に繋がる様々な価値と交換可能なのだ。

貯金の多さは幸せに比例すると盲信し、いろんなものを犠牲にしてお金を貯めていく話なのですが、その行き着く先がすさまじいです。守銭奴の究極系ですね。。お金の使い方を考えさせられました。



どっちが大事

「わたしとスマホとどっちが大事なの?」

大事でないものは次々と破壊されていく話。大事でないものを排除する過程を繰り返していけば、本当に大事な物が残るのだろうか。そもそも、比較尺度が不明確なまま二者択一させるのは酷なことです。



診断

彼女は自分の娘が死ぬかもしれないという可能性を排除している。

母親の我儘に、救命を必要とする子供が引きずり回される話です。モンスタークレイマーの究極形です。現実を直視しないのは逃避でもあり、現状の幸せを維持する手段であるのかもしれないですね。



幸せスイッチ

あなたが幸せかどうかを決めるのは、周りの状況じゃなくて、あなた自身の脳なのだから

脳が感じる幸せな状態を自由に切り替えられる話です。幸せの感じ方は個人個人の気持ちの持ちようだと思うけれど、その感じ方と現実とが不相応なのは、どことなく不気味です。幸せに至る過程を大切にしたい。



哲学的ゾンビもしくはある青年の物語

「自由意志はないのに、まるで普通の人間のように行動する人間そっくりの存在だ」

意識のない人間そっくりの存在に気づいてしまった話です。人間に意識があるというのは思い込みなのかもしれない。知らなければ幸せのままでいられたのに、、そんな事実はたくさんあったりします。



今の幸せは、他のより良い幸せに気づけなかった結果でしかない。そんな現実を突きつけられるような小説でした。