マイナー・マイナー

隠れた名作の発掘が生きがい。

『フリージア』何かのためにあがく大人、すごく格好いい!


スポンサードリンク

迷走する大人にぴったりの漫画といえば、松本次郎さんの『フリージア』です。


おそらくは、学生の時に読んだら「ぽかーん…」という感じの漫画だと思います。大人になって、生きる目的とか、働くことの意義とかが分からなくなってから読むと、強く心に響くものがあるのではないかと思います。


誰もが自分が何者なのか分からなくて、きっとそれは死ぬ瞬間になっても分からないものだと思うわけです。何かを求めているけれど、その求めているものが分からない。その何かを手に入れようと必死にあがく、そんな姿に心を打たれます。


例えば、荒廃したビルを背景に彷徨っている描写があるのですか、これがとても心を打ちます。


f:id:yosinoo:20161009193533p:plain

この描画、たまらなく好き!


登場人物は多かれ少なかれ「何か」を得ようとあがくのですが、その姿がとても格好いいのです。とりわけ好きな登場人物は、岩尾ヒサエ、溝口正樹、ヒグチの三人です。敵討ち執行法が成立した混沌とした世界で、さまざまな迷走が繰り広げられます。


フリージア(1) (IC)

フリージア(1) (IC)


登場人物

岩尾ヒサエ

私は光なんか見えやしない沼の底でもがいてる魚なんだ。
だから私をそこから出してくれるヤツなら誰でもいいんだ。


独立開業している警護人です。敵討ち執行人の主人公との戦いの中で、自分の望むことについて迷走します。


生活するためにたいていはある職業につきますが、その職業が向いているかどうかは分からないものです。その職業が向いていなくて、ただただ生活するためにその職業を続けているのであれば、きっと沼の底でもがいている魚みたいな気分になると思います。


進むべき道を間違えているけれど、その道を変える方法が分からない。道を正すのは簡単なことなのかもしれないけれど、誰かに指摘されなければ分からないものなのだと思います。

溝口正樹

そうだ。俺は今満たされているんだ。
ここに存在するのは、愛だけなんだ。


敵討ち執行代理人です。主人公を殺そうと計画するのですが、その計画が失敗し、暴走します。


自分をずっと支えてきた存在を失うと、自分が何を支えられていたのかが分かるものだと思います。しかし、その支えてきたものが自覚できないのであれば、自分の力量を見誤ることになります。


自分のプライドというものは、自分を支えてきたものを認めないものだと思います。一人の力で全てをやってきた、そういった錯覚は悲劇につながります。プライドを捨てれば、力量を見誤ることも、手段を間違えることもなかっただろうに…

ヒグチ

私が見たいものは、混沌とした状況なのよ。
その事態を理解する事も気付くこともできずにもがいいている姿。


敵討ち執行事務官です。主人公を執行代理人に誘った人物です。主人公を観察し、何かを得ようとします。


自分が何者なのか分からないのであれば、自分に似た誰かを観察すれば、自分が何者なのかが分かるのかもしれない。自分の分身が行き着く先は、自分が行き着く先と同じなのではないだろうか。


ある人がいくら自分と似ていても、その人は完全に自分と同じではないわけで、行き着く先も違うものになるはずです。行き着く先が違うと分かっていても、ついつい観察してしまう。おそらくは、一人で迷う勇気がなかったのだろうと思います。人は一人で死ぬ、そんな切ない余韻を残していきました。


前に読んだ時の感想:
minor.hatenablog.com