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『家に棲むもの』身近に得体の知れないものがいる恐怖感


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当たり前だと思っているものは、実は怖いものかもしれない。


身近にいる存在が実は得体の知れない存在だと分かる…そんな物語のある小説が小林泰三さんの『家に棲むもの』です。7編の短編集です。


人間は「見たくないものを見られなくするフィルター」を無意識に作れる生物だと思います。世の中は不都合な真実が溢れているので、そんなフィルターがないと生活ができないんじゃないかと思います。


何かしらの不都合な事実を見たくないためにフィルターができる。しかし、忘れた頃にその不都合な事実が呼び起こされる場合もある。その現場に立ち会ったとき、果たして発狂せずにいられるだろうか。


今まで見ないようにしてきたことが明らかになる恐さ…『家に棲むもの』はそんな恐怖が感じられる小説です。




以下、短編のあらすじと感想です。

家に棲むもの

父「武夫(たけお)」、母「文子(ふみこ)」、娘「ひかり」、夫の祖母「芳(よし)」の家族が武夫の実家で一緒に暮らし始めます。しかし、文子はその実家に異様な雰囲気を感じます…


誰かが部屋にいるような、そんな怖さってありますよね。怖い何かは実際にいるんだけれども、脳はそれを認めたくなくてフィルターしているだけなのかもしれないです。気づかなければ、幸せなままなんですが…

食性

かつて付き合っていた肉食の「易子(やすこ)」、現在の妻である菜食主義の「連子(れんこ)」。主人公は連子の主義に従って肉食を避けていたが、どうしても耐えられなくなり…


生命は生き物を食べる連鎖で成り立っています。そう考えると、食べるという行為は神聖であり、その行為によって何かが救われる気がします。食性を認めて受け入れる話です。

五人目の告白

とあるノートに「一人目の告白」から「四人目の告白」が記述されています。それらの告白内容はどれも殺人を漂わせる内容です。そして、「五人目の告白」はタイトルだけが書かれており…


与えられた環境とノートの情報を頼りに殺人の真実が暴かれるのですが、その推理の過程がすごく面白いです。論理的思考の実践例を見ているような話です。

「白井郁美(しらいいくみ)」は助教授の「丸鋸遁吉(まるのことんきち)」の助手として遺伝子工学の研究をしています。丸鋸遁吉先生は家畜の遺伝子組み換えが専門なわけで…


遺伝子を組み替えて1匹の家畜から多くの肉が採れるようにする、そんな研究はどこかで行われていると思います。その家畜がどんな肉付きになっているかを想像すると、たいていの人は食欲がなくなりそうですよね。

森の中の少女

ある村に「母」「兄」そして「少女」が住んでいます。村と森の境界を超えた先には恐ろしいものが住んでいると「母」は「少女」に諭しますが、「少女」は過去の記憶が気になって森の境界に近づきます…


童話「赤ずきん」を彷彿とさせる話です。恐ろしいものの正体がうまくベールに包まれているような、もしくは森と獣が持つ不安さが漂うような、そんな不可思議な世界観が素敵です。

魔女の家

子供の頃に魔女の家に行ったことがある、そんな内容の日記をある男性が読み返します。おそらくは男性が自分で書いた日記ですが、男性にはその記憶がなく…


幼い頃の記憶は、曖昧で、そしてよくよく考えると奇妙なものもあったりします。そんな奇妙な記憶を言及して日常が崩れていく過程が読んでいて面白いところです。

お祖父ちゃんの絵

お祖母ちゃんが舞ちゃんに「お祖父ちゃんの描かれた絵」の思い出を語ります。昔、お祖母ちゃんは絵のモデルを探し、道を歩いている途中で祖父ちゃんと出会います。お祖母ちゃんは祖父ちゃんをモデルとして絵を描き始め…


自分自身が異常であるということを本能から理解できていないこと、それが狂気のひとつの要素だと思います。ただただ狂気が怖い…「お祖父ちゃんの絵」はそんな話です。