人間は、自分自身が他の生き物と比べて高尚で完成された生き物と思い込んでいるところがあります。けれどそれは幻想にすぎなくて、考え方を変えると人間はとても不安定な生き物のように見えてきます。
人間は不安定な生き物、そんな事実を突きつけられる小説が『人獣細工』でした。三編からなる短編集であり、その物語はどれも人間の不完全さをあぶり出すような内容です。
目を背けていたい不完全な部分、それを認識したとき、不快感をともなう恐怖がずっと尾を引きます。
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2014/11/29
- メディア: Kindle版
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人獣細工
わたしは人間の定義が知りたかったのだ。つまり、どのような条件を備えていれば人間と呼べるのかを。
豚の臓器や皮膚などを移植した少女の話です。異種移植をテーマにした内容なのですが、15年前に読んだ当時は「倫理的にどうなの?!」と衝撃を受けた内容でもあります。
最近は豚の臓器を他の動物に移植するような研究が進んでいるので、異種移植に対する倫理観は和らいできていると思いますが、それでも抵抗のある人はいると思います。人の身体を豚に取り替えたとき、人は人と言えるのか。人間性の曖昧さを感じて不安になる話でした。
吸血狩り
初めて、吸血鬼を見たのは八歳の夏だった。
8歳の少年が吸血鬼と戦う物語です。吸血鬼は15歳の従姉と定期的に接触する関係を持っています。従姉を救おうと、少年は吸血鬼が苦手なものを使って対抗します。
後味の悪い話、というカテゴリーに間違いなく入ります。物語の解釈は読み手に委ねられている部分がありますが、最悪な方の解釈で捉えると落ち込むものを感じます。平和な田舎、幸せそうな家庭、そんな日常でも起こりうる惨劇に感じたくない親近感を感じました。
本
この本の元の形態はあなた方の持つ限られた概念の中では、絵画と音楽に近い物だった。
読むと発狂する本「芸術論」をめぐる物語です。その本を読んでも発狂する人としない人がいて、その違いは何かを探っていきます。
おもしろいと思ったところは、芸術をソフトウェアとして捉え、芸術を鑑賞した人にソフトウェアがインストールされるという観点です。ソフトウェアは人間というハードウェア上で動く、、だとしたら人間は芸術によってコントロールされるだけの存在なのだろうと思います。