『ゆれつづける』というタイトル、すごく良いです!
思えば松本次郎さんの作品には自己が不安定なキャラクターが多いような気がします。自分が何者かが分からない。けれども前に進んでいく。「ゆれつづける」はそんな姿勢を隠喩しているように思えて、そこに素敵な何かを感じます。
不安定な世界の中で、自分の軸が分からずに変化していく。その変化の中で何か大切なものが見つかる。そして、その大切なものを基点に過去を振り返ると、実はゆれつづけていた。この漫画はそんな気付きが得られるような内容でした。
本作は7編の短編から構成されています。『フリージア』や『熱帯のシトロン』を読んでいると、見覚えのあるようなキャラクターが出てきて、少しテンションが上がります。
- 作者: 松本次郎
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2013/10/30
- メディア: Kindle版
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ゆれつづける
僕はね 外でインスピうけるタイプなんだ
裸の天才書道家がスランプの話。裸で街を散歩したら、みだらなことが立て続けに起こります。バイオレンスさのある狂った日常の中にも、何かしらの綺麗なものがある。それになかなか気付けない。
ひるがお
おひるやすみはうきうきうおっちん
今日死ぬ予定の男が、お昼にある女性の住むアパートに行く話。昼なのに暗いという仕上がりが特徴的です。世界はいくら晴れていても、心の持ちようで暗くなる、そんな内容です。いいともが懐かしい。
不可侵魎域
まるで人間の醜態を具現化したようですね
殺したはずの奥さんが別の肉体をともなって蘇ってくる話。殺しては復活するの繰り返しで死体だけが増殖していきます。自分に負い目のあるものは、巡り巡って自分に跳ね返ってくる、そんな教訓を感じます。
サンポーラとクレゾーラ
僕たちは子どもだから何にでもなれるんだ
マスクを被った子どもの兄妹の話。子どもの見ている世界は創造性にあふれている。なので、大人達が失望を感じる世界でも、子ども達にはその光景が希望として見えたりもする。大人達から見れば救いようがないという状況であっても…
猫祭り
ネコだったら許してくれるかな…多分
マスクを被った子どもの兄弟が赤ん坊を見つけた話。親が自分の子どもを邪険にしていたとしても、子どもにとっては親というのは唯一の存在であるため、有事のときには親を守ろうとするのではないかと思います。救われない話です。
GIVE AND TAKE
満たされなくてもこいつがあれば我慢くらいは出来るからな
殺人事件を調査していたらマスクを被った子どもの兄弟に出会った話。社会はギブアンドテイクで成り立っているけれど、双方の物の価値観は同じとは限らない。その不定さが面白く感じる話です。
ハードボイルド坂田
スコープの向こう側が俺の全てなんだからな
ある男を狙撃するために、売春婦の部屋に居座る話。狙撃銃のスコープばかり見ていると視野が狭くなる、そんな内容です。ハードボイルド?でハートフルな話でした。