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『因業探偵~新藤礼都の事件簿~』論理的思考で弄ぶ快感!


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圧倒的な論理的思考ができるのであれば、人を追い込むことも容易いわけで。


論理や理屈をうまく操って事件の関係者を弄ぶ小説が小林泰三さんの小説『因業探偵~新藤礼都の事件簿~』です。『密室・殺人』に登場した女性「新藤礼都(しんどうれつ)」が主人公の小説です。


ただ面白いから論理で追い込む。最高潮の時に突き落とせば面白いので、最高潮になるよう計画を実行して然るべきタイミングで突き落とす。この小説はそんな性格を持つ女性が主人公です。その独壇場が面白いです。


因業探偵?新藤礼都の事件簿? (光文社文庫)

因業探偵?新藤礼都の事件簿? (光文社文庫)


本書はプロローグと6つの短編から構成されています。

プロローグ

新藤礼都は、過去に怒った殺人事件を簡単に解決できた経験から探偵を始めようとします。そのためにまずはお金を貯める必要がある、というわけでアルバイトを始めます。

保育補助

「左小路(ひだりこうじあまこ)」は「丸屋敷慶子(まるやしきけいこ)」が園長を勤める24時間営業の保育施設で働き始めます。そこには、とある理由により、新藤礼都がすでに働いています…


新藤礼都は幼児が泣いている理由を分析し、その分析に応じた対応を淡々と行います。アプローチとしては間違ってはいないですが、その行為にはなぜか人間味が欠如していると思ってしまいがちですよね。痛快な追い込みが行われる話。

剪定

「田沢(たざわ)」が公園で弁当を食べていたら、新藤礼都の剪定作業に驚いて弁当をこぼします。その弁当の片付けを田沢に要求する管理人「西田多紀郎(にしだたきろう)」と、その要求に反対する老人「九度山(くどやま)」が言い争います…


論理が矛盾する会話を平然と行う人が中にはいます。そして、その矛盾を指摘しても頑なに受け入れない人も中にはいます。そんな相手を新藤礼都が弄びます。やっぱり痛快。

散歩代行

新藤礼都が犬の散歩を代行する仕事をする話です。その犬「チビ」は殺人事件の犯人を目撃しており、チビの視線に気づいた犯人がチビを始末しようと追いかけてきます…


散歩する側からすれば、突然、よく分からず犯人に殺されそうになります。そんな状況であっても冷静に分析してうまく対応するのが新藤礼都です。異常な状況をすんなり受け入れられる人ってすごい。

家庭教師

「本郷忠介(ほんごうただすけ)」は息子「広重(ひろしげ)」が誘拐された、という内容の手紙郵便受けで見つけます。忠介は、広重の友達である「蔵山豪(くらやまたけし)」の家に訪れ、その母「茂子(しげこ)」に心当たりがないか尋ねます…


世の中には状況を把握し、思いのままにかき乱す天才がいます。そのひとりがまさしく新藤礼都です。誘拐事件をかき乱すだけかき乱してただ自分だけが楽しむ、関係者からするとたまったもんじゃないです。

パチプロ

「桐谷吾郎(きりたにごろう)」はある理由で「仙堂幸実(せんどうゆきみ)」に追いかけられ、パチンコ屋に逃げ込みます。そして新藤礼都とぶつかり、持っていたパチンコ玉をこぼします。


賠償請求はきっちりとする、それが新藤礼都です。そして、相手に何かしら後ろめたいことがあるのであれば、それをとことん追及したりもします。敵に回したくないですよ。

後妻

ある老人と結婚した妻は、老人を早く死亡させて財産を得ようと画策します。計画した内容は、夫が健康にならないように味の濃い料理を作り続けて食べさせることだった…


陰謀を感じさせずに淡々と長期計画を実行できる女性、それが新藤礼都です。限られた条件で最大の利益となるように行動できる人間ほどれほどいるだろう。そんな人間はきっと圧倒的な論理的思考と執拗さを持っているのだろうなぁ…


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