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発熱するマイナー魂

隠れた名作の発掘が生きがい。サブカル作品の感想とIT技術メモ中心のブログです。

『海を見る人』異世界間でも変わらない何かに惹かれます

小説

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『海を見る人』は、様々な世界で生きる人々や生命を題材にした短編集です。天と地がひっくり返ったような世界や、時間の進む早さが場所によって異なる世界が登場したりします。SF的な好奇心が燻られます。著者は『玩具修理者』で有名な小林泰三さんです。


7つの短編はそれぞれ異なった世界を舞台としているので共通項はなさそうに見えるけれど、マクロな視点で見ると普遍的な何かが視えてきたりします。その何かに気づいたとき、世界の真理に近づいたような錯覚を感じたりして、その感覚がたまらないのです。


海を見る人

海を見る人


時計の中のレンズ

あいつはカオスの谷を超える気はないみたいだ。つまり、このまま<歪んだ円筒世界>にとどまるつもりだ。

<楕円体世界>を目指す一族の話。きっと世界には不可侵で絶対な理みたいなのがあって、意志と信じている行動原理で理に反する(と思った)ことを行ったとしても、マクロな視点で見ればその行動は理に準拠していることが分かったりする。人の行動原理も世界の一部として組み込まれていると感じられる内容でした。



独裁者の掟

人は大事なもののためには、何だってできる。どんな汚いことも。

世界を救おうとする独裁者の話。独裁者というと、一人で好き勝手するという先入観があり、社会の中で好き勝手されると迷惑な話なので悪だという雑な判断軸があったりします。けれど、歴史を振り返ると独裁者が結果的に正しい行為を行ったこともあり、それを考えると善か悪かは時間によって変わったりするものなのだろうと思います。



天獄と地国

まったくもって、理屈に合わない。足を外側に向けていては、大地を踏みしめられないじゃないか。

ひっくり返った世界で楽園を夢見る話。真理の探求過程がとても素敵です。この続きが書かれた小説も出版されています。

詳細:地の楽園を目指す旅 『天獄と地国』



キャッシュ

キャッシュは実際の人間と区別がつかない言動を周囲の人間に見せることを目的としています。

仮想世界のコンピュータ資源が枯渇している要因を探る話。見掛けを提供する仕組みとは分かっているけれど、それを本物として認識してしまうこともあったりします。今見えている世界は自身の都合が良いようにフィルタされており、それに気づかないと危険なことになったりするという警句を感じました。



母と子と渦を巡る物語

そう。僕は生き延びて、お母さんのもとに帰らなければならないんだ。

未知の環境を探査する物語。重力とか引力とか、宇宙の物理法則の話がぎゅっと盛り込まれていて「あぁ、ハードだ」と感じる内容です。極度に発達した科学技術は、感情や感性といった人間らしさの要因と信じられているものすらも利用され得るものだと思います。また、高次の目的のためには感情を無下にされたりもするのだろうと思いました。



海を見る人

そして、カムロミが大人になるのを待っていたら、僕は年寄りになって死んでしまうんだよ。

時間の流れが異なる場所に住む人達の交流物語。「山の村」と「浜の村」の二つの場所があり、「山の村」での一年は「浜の村」では三、四日の出来事だったりします。時間感覚が異なることによって体感にズレが生じるけれど、そのズレに一途な想いで抗う過程がせつない余韻を残す、そんな話でした。





そうです。CTLとはそうしたものです。原因が結果となり、結果が原因となる。

宇宙空間に現れた『門』を巡る話。時空間を司る何かがすごく怖いです。ブラックホールを題材にした有名なタイムパラドクスを彷彿させる内容で、因果律の不思議さに胸が熱くなります。「今生きている世界は、原因と結果が固定された現象の延長線上にいる」という気付きが得られた作品でした。