日常と繋がっている不思議な世界を描いた漫画がpanpanyaさんの『蟹に誘われて』です。もうね、表現力が素敵すぎますよ!
絵の特徴としては、背景が達筆に描かれており、そして対照的に主人公はラフな(やや浮いた)感じで描かれているところにあります。最初は「ん?」と思うんですけど、読み進めるうちにこの絵が癖になってきます。くはーってなります。
そして、所々に書かれている日記がまたセンスがあるんですよねー。例えば表紙に書かれている日記の出だしは次の通り。
蟹に誘われたことがある。蟹はその鋏と歩脚を器用に使い驚くほど素早く地面を移動する。誘われる側も楽ではないが、蟹の持つ優美な外見と数多の美食家を虜にするという豊かな食味、そしてその市場価値のことを思えば全速力で追いかける価値は十分にある。蟹は思うままに住宅街を駆け抜け私を翻弄した。
もうね、くはーってなりますよね。日常に潜む不穏さや不思議さの表現力が抜きん出てますよ。
本編は18編の短編で構成されています。以下、その簡単なあらすじと感想です。
- カニに誘われて
- わからなかった思い出
- 魚の話
- inovation
- 地獄
- パイナップルをご存知ない
- 池があらわれた話
- 方彷の呆
- 大山椒魚事件
- decoy
- 気味
- TAKUAN DREAM
- 二〇十四年一月三一日の夢
- 甲斐
- 不穏な日
- 鍋
- THE PERFECT SUNDAY
- 計算機のこころ
わからなかった思い出
祖父母の家に遊びに行くと何か新しいおもちゃがもらえる…という思い出話です。だんだんと難解になっていくおもちゃに成長と少しの恐怖を感じます。
魚の話
日本語を喋る魚をおろそうとする話です。喋る魚をおろすのに抵抗感があるのは、そこに知能があるように感じてしまうためなのだろうなー。
inovation
発電のためにヤシの実を割るアルバイトをする話です。ヤシの実と発電の関係性が明らかになったとき、思わずフッとなります。inovation=革新。
地獄
駅のプラットホームに向かう人(?)達が泣いている話です。涙を流している理由を知ったとき、別の意味で泣けてきます。
パイナップルをご存知ない
パイナップルの実物がどうやってなっているかを探る話です。土の中で育つのか、リンゴのように木になるのか…実物がどうなっているかを知らない食べ物は結構あることに気づきます。
池があらわれた話
夏休み明けに学校に来たらいつのまにか池ができていた話です。驚くポイントは人それぞれです。
方彷の呆
電車の中で寝過ごし、慌てて降りた場所は見たこともない駅だった…という話です。迷路のような見知らぬ街と、そこで一人彷徨う心細さの描画が素敵です。
decoy
池の上にカモのデコイを浮かべ、そこにやってきたカモを写生する話です。何も変化がないようなことでも、習慣化することで少しずつ変わっていく何かに気づいたりします。
気味
夜に車で峠を越えようとしたら、片付け忘れている鯉のぼりに遭遇する話です。その時は怖いと思ったことも、後で思い返してみると平気だったりします。オチが怖い。
TAKUAN DREAM
たくあんのプラモデルを買い取って組み立てる話です。たくあんドリームを叶えます。良い話。
甲斐
ブロック塀の隙間に巣を作った鳥の話です。新しい環境に適応しようとすると別の脅威があらわれたりします。どこかわだかまりが残ります。
不穏な日
いつもとは何か違う雰囲気に警戒しすぎる話です。不吉な予感に過敏になるあるあるです。
鍋
闇鍋をやりたくてスーパーマーケットに買い出しに行く話です。何が入っているか分からないドキドキ感を手軽に楽しみます。
THE PERFECT SUNDAY
最高の日曜日を作るために土曜日にがんばって準備をする話です。次の日を楽しくするための準備の方が楽しい…そんな経験ありますよね。
計算機のこころ
イルカの頭脳を用いた計算機の話です。主人の出した難問を考え続けるイルカ…そんな師弟関係が不思議な余韻を残していきました。