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隠れた名作の発掘が生きがい。

『ナチュン』人智を超えた存在が徐々に見えてくる


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都留泰作先生の漫画『ナチュン』を読みました。沖縄の海を舞台にした近未来SFです。全6巻です。


舞台は2050年頃の日本。主人公の「石井光成」はフランシス・デュラム教授が記録したイルカと戯れる映像を見てあるアイデアを思いつき、そのアイデアを実現して世界征服をたくらみます。


イデアの理論の確立にはイルカの生態を観察する必要があり、観察できる場所を求めて琉球諸島にある真計島を訪れます。イルカを近くで見るために、働くことを条件にして漁船に乗せてもらいます。


海に出てイルカの群れに出会った石井は、そこでイルカと共に泳ぐ1人の女性と出会います。しかし、その女性は人が理解できる言葉を話せなかった…というのが物語の導入になります。


野心家の学生と言葉を発せない女性が徐々に打ち解けあっていくような話から、やがて世界を揺るがすような大きな話になっていきます。SF好きにとっては胸が熱くなる展開が待ち受けています。



様々な人が別の研究を進めていくのですが、その過程で共通の理につながるような展開が面白いです。主人公はイルカの観察で、宗教家は豚と人を利用した実験で目的を達成しようとしますが、その過程で人智を超えた存在が見えてきます。


一例として、物語の中盤で、石井は多種多様の人種が集う絶望の世界アンダーワールド〉で労働を強いられるようになります。暗黒の中で見た光を差して、人々はあるひとつの言葉を発します。その様子を見て石井はこう思います。

共通語彙の存在しないこの世界で
なぜその言葉だけが共有されていたんだろう
だが それを説明できる者はここには誰もいなかったのだ


クトゥルフ神話を想起させるようなこの展開がとても熱いです。熱すぎます。人智を超えた存在の配下で人は生きている…それを感じさせる内容がたまらないです。


まだ知り得ない世界の真理に近づく面白さを『ナチュン』は体現していると思いました。とりわけ理系の人々ははまるのではないかなと思います。