マイナー・マイナー

隠れた名作の発掘が生きがい。

説得力のある奇妙な論理展開が素敵『見晴らしのいい密室』


スポンサードリンク

『見晴らしのいい密室』は小林泰三さんが書く7篇の短編集です。『目を擦る女』から3篇の新作を入れ替えた構成となっています。説得力のある奇妙な論理展開がもう素敵すぎです。


見晴らしのいい密室 (ハヤカワ文庫JA)

見晴らしのいい密室 (ハヤカワ文庫JA)


見晴らしのいい密室

「合理的な解決が存在しないような事件に対してのみ彼は行動を開始する」

「超限探偵Σ」を改題した作品。推理するのもいやになるくらい解決困難な事件が起こるのですが、それをすさまじい論理展開で解決します。なんか不可能なんてない気分になる誤読感を残します。この続きは『大きな森の小さな密室』に繋がります。


目を擦る女

「だから気をつけてね。決してわたしの目を覚まさせないように。」

この世界はすべて自分の見ている夢。そんなことを語る女の描写がすごく粘着質でホラーです。この世界が誰かの見ている夢だとしたら、自分の意識とは一体なんなのだろうか。小学生の頃にプレイした『ゼルダの伝説 夢を見る島』をふと思い出します。


探偵助手

「わかったことは直接先生には伝えられない。」

心筋梗塞で亡くなった資産家の真相を探るミステリー。QR-JAMというイラスト入りのQRコードが作中に埋め込まれているのですが、このコードが最後でまさかの真相を映し出すことになるとは。


忘却の侵略

「敵は『見えない』のではない。『記憶できない』んだ」

正体の分からない敵に立ち向かうストーリー。正体を見ることが重要ではなく、正体を確定させることが重要である、そんな内容がすごく面白いです。未知のものに対する接し方が変わります。「シュレディンガーの猫」系の小説です。


未公開実験

「違う。タイムマスィーーーンだ」

タイムパラドクスをテーマにした作品。タイムマスィーーーンのタイムトラベル原理はまさかの仮定に基づいていて、その内容になぜかすごく惹かれます。マッドサイエンティストとその仲間達のコミカルな会話も面白いです。


囚人の両刀論法

「現実の世界では『囚人の両刀論法』は未解決のままなんだ」

両刀論法(りょうとうろんぽう)とはジレンマのことで、ゲーム理論で有名な問題のひとつです。その囚人のジレンマを解決するひとつの策を巡って壮大な計画が始まるのですが、その帰結の先でまさかあの作品に繋がるとは!うおおおお!


予め決定されている明日

「あなたのいる世界は算盤とメモ用紙の中にあるのです」

世界はそろばんで計算されていて、計算に介入することで世界を改変できる。そんな世界観と、世界の真理を示唆するような帰結が素敵すぎです。未来は発見するものという概念が衝撃的で何度も読み返している作品です。今を生きているとは一体何なのだろうね。


小林泰三さん関連:
邪なたくらみに満ちたホラー・ミステリー『完全・犯罪』 - マイナー・マイナー
モザイクな探偵達『大きな森の小さな密室』 - マイナー・マイナー
地の楽園を目指す旅 『天獄と地国』 - マイナー・マイナー
科学と論理がぎゅっと詰まったハードSF 『天体の回転について』 - マイナー・マイナー