マイナー・マイナー

隠れた名作の発掘が生きがい。

小説

『逡巡の二十秒と悔恨の二十年』後悔と満足の交錯

小林泰三先生の短編小説『逡巡の二十秒と悔恨の二十年』を読みました。 一瞬の迷いによって長い後悔に苛まれる表題の作品「逡巡の二十秒と悔恨の二十年」、他者に与えることを目的とした理想郷「草食の楽園」、食用かどうかで食べる肉を選ぶ「食用人」など、…

『杜子春の失敗~名作万華鏡 芥川龍之介篇~』バッドエンドを回避するノウハウ

物語には教訓があり、その教訓を生かせるかどうかは読者次第です。小林泰三先生の『杜子春の失敗~名作万華鏡 芥川龍之介篇~』は「物語の教訓」をテーマにしたような小説です。 本作は4編の短編で構成されており、それら4編は芥川龍之介が執筆した小説の世…

『代表取締役アイドル』理不尽な上司達に耐えられる?

上司の言うことは絶対! 上司からの理不尽な要求にドン引きする小説が小林泰三先生『代表取締役アイドル』です。アイドルが代表取締役になって一騒動が起きる物語です。 アイドルグループに所属する河野ささらは、大企業のレトロフューチュリア株式会社から…

『人外サーカス』サーカス団の技VS吸血鬼の暴力

サーカス団 vs 吸血鬼軍団 そんなバトルアクションを楽しめる小説が小林泰三先生の『人外サーカス』です。『ネフィリム 超吸血幻想譚』の続編です。まさか続編が出るとは!? とあるサーカス団の男が女をサーカスに連れ込むところから物語は始まります。女の…

『ティンカー・ベル殺し』本当は怖いピーター・パン

独裁的なピーター・パンに戦慄する。 そんな小説が小林泰三先生の『ティンカー・ベル殺し』です。『アリス殺し』『クララ殺し』『ドロシイ殺し』に続く、シリーズ4作目です。今回の舞台は「ネヴァーランド」です。 ピーター・パンがウェンディとウェンディの…

『因業探偵 リターンズ~新藤礼都の冒険~』あの素晴らしい邪悪をもう一度!

邪悪な性格と非凡な才能で当事者達を弄ぶ… そんな小説が小林泰三さんの『因業探偵 リターンズ~新藤礼都の冒険~』です。『因業探偵~新藤礼都の事件簿~』の続編です。 本作は6つの短編で構成されています。新藤礼都が今回関わる職業は、ユーチューバー、マ…

『風は青海を渡るのか?』意識や生命を探求する楽しさ

森博嗣さんの小説『風は青海を渡るのか? (The Wind Across Qinghai Lake?)』を読みました。Wシリーズの第3作目です。青海はチベットにある青海湖のことを指していて、そこが舞台の一部になっています。 主人公の「ハギリ」は人間とウォーカロンを識別する研…

『ドロシイ殺し』まさかの登場人物と結末にファン興奮です

小林泰三先生の『ドロシイ殺し』を読みました。『アリス殺し』『クララ殺し』に続くファンタジー・ミステリー小説です。今度は「オズの魔法使い」シリーズが舞台です。 物語は「フェアリイランド」という世界にあるオズの国から始まります。その世界にいるド…

『魔法の色を知っているか?』マガタ博士の神聖さを堪能しました

森博嗣さんの小説『魔法の色を知っているか? (What Color is the Magic?)』を読みました。Wシリーズの第2作目です。いやー、胸が熱くなりました! 舞台は人工細胞で作られた生命体「ウォーカロン(walk-alone)」 が生活している近未来。技術の進歩により人…

構成の特殊さに惚れる!殊能将之先生のおすすめ小説7選

殊能将之先生は主にミステリー小説を執筆していた作家です。文書の構成がとても練られているのが特徴で、ミスリードがとてもうまいです。そして、散りばめられたミスリードを次々と収束させる展開にとても魅力を感じます。 構成の特殊さに惚れる…そんな殊能…

『殊能将之 未発表短篇集』天才性を感じるあとがきも魅力的

『ハサミ男』『黒い仏』の著者で有名な殊能将之先生。その著者の死後に出版された短篇集が『殊能将之 未発表短篇集』です。4篇の短篇が収録されています。 短篇も面白いですが、あとがきも面白いです。あとがきでは殊能将之先生の人物像が語られるのですが…

『子どもの王様』異世界と繋がっているような団地の空気がたまらない

団地が漂わせる奇妙な空気ってありますよね。そんな空気を体感できるジュブナイル × ミステリー小説が殊能将之さんの『子どもの王様』です。 舞台はとある団地。そこに住んでいる小学生のショウタは、同じ団地に住んでいる友達のトモヤから「子どもの王様」…

『キマイラの新しい城』密室の謎はとてもシンプル、だけど気づけない

750年前に起きた死の謎、解ける? そんなむちゃぶりの事件に挑む小説が殊能将之さんの『キマイラの新しい城』です。石動戯作(いするぎぎさく)シリーズの第4作目です。 舞台は千葉の山奥のファンタジーランドに再建された「シメール城」。この城は、750年前…

幻想と本当の世界が入り乱れる物語『目を擦る女』

自分が現実だと思っている世界は本当の世界なのだろうか。本当の世界は別にあって、幻想を本当の世界だと思っているだけではないだろうか。 幻想と本当の世界が入り乱れる、そんな物語が詰め込まれた短編小説が小林泰三先生の『目を擦る女』です。全7編で構…

構成の巧妙さに身震いする『鏡の中は日曜日』

散りばめられた謎が一気につながる構成って良いですよねー。 構成に魅せられる小説が殊能将之さんの小説『鏡の中は日曜日』です。石動戯作(いするぎぎさく)シリーズの第3作目です。本小説には表題の「鏡の中は日曜日」と「樒 / 榁(しきみ / むろ)」が収…

『美濃牛』日本の風土が創り出す牛と迷宮

岐阜県の美濃の牛、そして迷宮… ミノタウロス!?と思ったのが殊能将之さんの小説『美濃牛』です。石動戯作(いするぎぎさく)シリーズの第1作目です。 舞台は岐阜県の架空の村である「暮枝村(くれえだむら)」。その村にある鍾乳洞「亀恩洞(きおんどう)…

奇妙な論理好きにおすすめ!小林泰三先生の名作小説30選

小林泰三先生はホラー、SF、ミステリーとさまざまなジャンルの小説を書いています。ジャンルは違っていても、共通して「論理展開」が大きな魅力としてあります。受け入れ難い仮説をさも真実であるかのように説得させられる…そんな論理展開力が癖になります。…

『家に棲むもの』身近に得体の知れないものがいる恐怖感

当たり前だと思っているものは、実は怖いものかもしれない。 身近にいる存在が実は得体の知れない存在だと分かる…そんな物語のある小説が小林泰三さんの『家に棲むもの』です。7編の短編集です。 人間は「見たくないものを見られなくするフィルター」を無意…

『クララ殺し』登場人物達の繋がりが見破れそうで見破れない

異なる世界を行き来するファンタジー・ミステリー小説が小林泰三さんの『クララ殺し』です。『アリス殺し』の姉妹編です。 『アリス殺し』はルイス・キャロルの小説「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」を題材にした世界が登場しましたが、『クララ殺し…

『因業探偵~新藤礼都の事件簿~』論理的思考で弄ぶ快感!

圧倒的な論理的思考ができるのであれば、人を追い込むことも容易いわけで。 論理や理屈をうまく操って事件の関係者を弄ぶ小説が小林泰三さんの小説『因業探偵~新藤礼都の事件簿~』です。『密室・殺人』に登場した女性「新藤礼都(しんどうれつ)」が主人公…

『密室・殺人』論理的思考で謎を解く快感!

「密室殺人」ではなく「密室・殺人」 密室と殺人を描いたミステリー小説が小林泰三さんの『密室・殺人』です。理屈っぽい話好きホイホイなタイトルです。 ある雪山の別荘で女性が墜落死する事件が起きます。また、その女性がいたはずの部屋は密室となってお…

『老ヴォールの惑星』絶望的な状況に抗うという美しさ

生きることは可能だけど、そこで生き続けることに耐えられるかどうか…そんな状況に置かれる小説が小川一水さんの『老ヴォールの惑星』です。 この小説は4編の短編で構成されています。地下の迷宮、海水に覆われた惑星など、様々な絶望的な環境・状況が舞台に…

人の思い込みって怖いよね『惨劇アルバム』

とある家族(辺野古家)に起こった惨劇を描いたホラー小説が小林泰三さんの『惨劇アルバム』です。父、母、娘、息子、祖父の5人を主役にした5編の短編に序章・終章が加わった構成です。 「人の思い込みの怖さ」というのが短編で共通したテーマとしてあると感…

異常な思想が行き着く先は『セピア色の凄惨』

バッドエンドフラグマックス! 小林泰三さんのホラー小説『セピア色の凄惨』が凄惨です。タイトルからして嫌な予感しかしない! 物語は「探偵と依頼人」から始まります。この中で"ある依頼"の調査報告という形で4つの物語が報告されます。4つの報告が終わっ…

思い込みが激しすぎる依頼人達に耐えられる?『安楽探偵』

いくら日本語で意思疎通は取れるといっても、個人の持っている思考は様々なので、話が通じなかったりもしますよね。 中でも思い込みが激しい人とのコミュニケーションは厄介かと思います。その人から必要な情報を引き出したり、説得させたりするのは結構なス…

人工生命体がより人間らしくなる『彼女は一人で歩くのか?』

歩くのでしょう! 人間と人工生命体との関係に素敵なものを感じる小説が森博嗣さんの『彼女は一人で歩くのか? (Does She Walk Alone?)』です。Wシリーズの第1作目です。 人工細胞で作られた生命体「ウォーカロン(walk-alone)」。人間にそっくりで外見から…

ゾンビトリック炸裂『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』

ゾンビを殺すとしたら何か理由がある?? 小林泰三さんの『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』はゾンビ×ミステリーな小説です。この組み合わせ、今まで見なかったなー。 舞台は活性化遺体(俗称:ゾンビ)が外を歩いているのが普通となった世界。 人は…

(名伏し難い)とんでもない真相きた!『黒い仏』

和製のクトゥルフ系の小説が読みたい! と思って調べていたら殊能将之さんの小説『黒い仏』を見つけました。内容は、名探偵の石動戯作(いするぎぎさく)がベンチャー企業の社長の依頼を受けて福岡に行き、とある秘宝を探すというものです。 また、その依頼…

長期記憶できない系小説の究極系『失われた過去と未来の犯罪』

全人類の記憶が10分しかもたない。 この設定さね!小林泰三先生の小説『失われた過去と未来の犯罪』のこのトンデモ設定が熱いです。 物語は、ある日突然に長期記憶できなくなる現象に見舞われるところから始まります。人類はこの現象にどう対処し、そしてど…

モザイクいっぱい!『臓物大展覧会』

なんてタイトルだ! 小林泰三さんの小説『臓物大展覧会』は上級者向けホラー小説です。ホラーにもいろいろジャンルがありますけど、この小説はタイトルから察する方向のホラーです。 臓物と聞くとそれだけでうわーってなるのですが、生物にとっては大事なも…